断片日記

断片と告知

日々

前略、ぬいぐるみの中身様。

昨年の12月、飲み友達が死んだ。死んだからって、いい人だったよねと、あれやこれやを片付けお仕舞いにしたくなかった。本が好きで、酒が好きで、不良で、格好付けで、夢見がちな男だから好きになり、本が好きで、酒が好きで、不良で、格好付けで、夢見がち…

ピエーポポ!ライブ2017

今年のはじめ、チラシの肖像画を描いた縁で、東洋大学で行われた野溝七生子の講演会へ行った。女性が学校に通うことはおろか、本を読むことさえ生意気だと言われていた時代に、東洋大学に進んだ野溝七生子の一生を、代表作『梔子』の主人公と重ねた幼少時代…

桶川の焚き火

松本素生さんが作った「東京」という歌をはじめて聞いたのは、昨年9月に行なわれたポポロックフェスのときだ。イッツオーライ。繰り返されることばが、聴き終わったあといつまでも口先に残り続けるのが気持ちよかった。みちくさ市の打ち上げで、「東京」が好…

わたしの、まえのひを再訪する

「彼は、人生が一回しかなくて、すべてが過ぎ去っていくことが許せないんですよ。私も許せない。つまり、いつか全員が消えてしまって、この世のすべてが終わってしまうということが本当に理解できない。」 これは、『まえのひを再訪する』に抜粋されていた、…

スカートの柄 

朝、新聞を眺めていると、「父の教え」という連載が目に入った。毎週、有名人の父子が取り上げられているが、今朝は檀一雄とその娘、檀ふみさんだった。檀一雄が子どもたちに言い続けた「奮闘しなさい」という言葉と、晩年のエッセイ『娘たちへの手紙』から…

マヨヒガ

小田急線で小田原の少し手前まで。同じ電車で来たSと、すでに改札の外で待っていた隊員たちと、さらに遅れてきたUと、今日は神奈川の山と川沿いを歩く。カレンダーの裏紙に描かれた地図を頼りに川を越えて山へと向かう。昼飯の食材が入った20キロ弱の背負…

役立たず

口の奥、喉だかあごだかが痛みだし、話すことも噛むこともままならなくなり医者に行った。内科医にわからんと言われ、紹介された歯科医に行くと、あっさり潰瘍だと知れた。上の親知らずが大きくなりすぎて下の歯ぐきを傷つけてます。それが潰瘍になってます…

ちゃんとしてるね

前回、恭太さんや十四郎さんが褒めてくれたのは、ピカソやクレーが子どもの描く絵を面白がるようなもので、技術ではなく、はじめてもらったクレヨンで描きなぐるのがただ楽しくてたまらない、まだ自分が下手なことを知らない、下手なことを恐れない子どもの…

ドミソラーメン

穂村弘『短歌の友人』で紹介されていた馬場あき子の短歌。 都市はもう混沌として人間はみそらーめんのやうなかなしみ 寒くなった最近、食堂では味噌ラーメンの注文がぐっと増えた。温かければどんなで麺でもいいと思うが、不思議と味噌ラーメンが好まれるよ…

ポポロックフェス

雑司ヶ谷の家からそう遠くない場所にギャラリーが出来るらしいと知ったのは、学研から出ていた雑誌『Pooka』の記事だったように思う。どの駅からも遠い、何もない住宅地にギャラリーを作る人たちがいる、と出来てすぐにひやかしに行ったのが運の付き。ギャラ…

生活の底

いくつかあった絵の連載がふいになくなり金に困った。何年続こうといつか終わりはくるのだとわかってはいたが、その日が重なるところまでは頭がいたらなかった。どうしたことか単発の仕事さえもぴたりと止んだ。振込みのなくなった口座から金は減る一方で、…

隣りの卒塔婆

以前、どうした流れか忘れたが、退屈くんと卒塔婆の話になったことがある。新潟生まれの退屈くんが、東京に出てきてはじめて卒塔婆を見て驚いたとかなんとか、そんな話だったように思う。雑司ヶ谷にいくつかある墓地でも、子どものころ観ていたゲゲゲの鬼太…

猫の友だち

アトリエとして借りている風呂なしアパートのわたしの部屋へ、ときどき猫が訪ねてくる。近所のひとたちから、ちゃーちゃん、と呼ばれているこの猫は、首輪をし、この辺りを我がもの顔で歩いているが、どこのうちの飼い猫だかはわからない。 昼過ぎアパートへ…

甘い正月

正月が近づくと祖母は台所で玉子焼きを焼く。ガス台のまえに小さな祖母の背中がある。長方形の型に砂糖をたっぷり溶いた卵を流し込み、ちゃっちゃと箸で丸めていく。台所から甘い匂いが流れ出す。焼きあがった玉子焼きが木のまな板のうえに並べられていく。…

ひめりんごの枝

アトリエとして借りているアパートから歩いて五分もかからないくらいだろうか。いくつかの駅に歩いても行けるが、どこの駅からも少し不便な場所に、小さな商店街が生き残っている。 この地域で一軒だけ残る銭湯をほぼ真ん中に、肉屋魚屋八百屋パン屋惣菜屋飯…

BOEES 2014/09/06 in 夏葉社まつり

9月に行われた夏葉社まつりでのBOEESライブの様子、youtubeにupいたしました。あの日の熱気、あの日の空気。こうしてきちんと記録に残るのがとてもありがたいです。 赤いスイトピー以外の2曲はBOEESのオリジナル曲です。2曲目の函欠帙欠は丸三文庫・藤原主任…

夏葉社まつり

夏葉社まつりに、あの噂の、妄想の、幻の、放送事故の、都市伝説のバンド、ボエーズが出るんです!!! ***夏葉社まつり*** ひとり出版社の先駆け、夏葉社さんが8月31日で5周年を迎えます。 それにともない9月6日(土)、阿佐ヶ谷と荻窪の2駅をまたいで…

猫の歳月

路地の奥に建つ風呂なしアパートをアトリエとして借りてから三年と少し経つ。路地と空き地と古い家が建ち並ぶこの辺りには、人だけではなく、人の暮らしの隙間に猫がたくさん住んでいる。野良も首輪をまいたのも、車も人ものんびりしていると知っているのか…

隣りの引越

こんにちは。こんにちは。彼女は洗濯ものを干しながら、わたしは鍵穴へ鍵を差し入れながら挨拶をかわす。いつもはそれだけで終わるはずが、今日、彼女は口ごもりながら先を続けた。 あの。転居するの。 彼女は引越先の町の名前を言ったようだが、小さな口か…

東京ベンチ

砂金一平さんとは佃島の相生橋のたもとにある福祉施設で出会った。古本屋の友人たちが参加する、あいおい古本まつりの会場が、一平さんの働くその施設だったからだ。 リーゼントに細身のスーツを着て働く一平さんも、運河沿いに建つ見晴らしのいい建物も、福…

タイムマシン

4月の中旬に秋田へ、5月の連休に長野の山へ行った。東京ではとっくに散ったソメイヨシノが、秋田では咲きはじめ、長野の山ではちょうど散るころだった。 秋田ではよくツクシを見かけた。道路や駐車場の脇にこれでもかと生えていたが、採る人は見かけなかった…

また別のY字路

もうずいぶん昔の話だ。 中学高校の六年間をすごした友人から電話があった。卒業してから数年、彼女から電話がくるのははじめてのことだった。誘われて会うことになった。彼女の指定した待ち合わせ場所は、青山の骨董通りの入り口にあるマックスマーラの前だ…

コンビニの彼女

清澄白河で演劇を観た帰り、駅前の居酒屋で、同じく演劇を観に来ていた顔見知り数人と飲むことになった。どうしてその話題になったのかは覚えていないが、ひとりの男が、チェーン店やコンビニで働く人たちはみんな同じに見える、マニュアル通りにしか話さな…

酒屋の猫、夕方の酒

確定申告の升目を埋め終えて浮かれていた。冷蔵庫の豚バラと白菜と、あと一品、もやしでも買って鍋にしよう、とアトリエを出た。面倒を片付け終えた夕方、スーパーまで手ぶらで歩くのは寂しかった。近くのコンビニは重宝だが、缶ビールがいつもぬるいのが腹…

固有名詞

年の近い友人たちとの会話の途中、たびたび言葉につまるようになった。ほら、こないだのあれ、えーと、なんだっけ。そんな言葉が会話の途中にいくつも挟まる。作家や有名人の名前、本や映画の題名、店の名前や地名など、友人もわたしも、会話につまづくこと…

見立て遊び。料理と野球。

料理の本ばかり扱う古本屋が近くにできたと聞き、知人と訪ねることにした。一軒家を改装したという店は、店というよりも、本棚の並ぶ居心地のいい住まいのようだった。棚を眺め、安く飲める昔ながらの食堂を紹介した本と、はやりの店主が簡単に作れるつまみ…

遠くの枝

家が近くだから、同じクラスだから。そんな子どものころの大雑把な輪と違い、年を経てできた友人たちは、どこかいまの自分と似ている。理科の教科書に載っていた生物の進化図みたいに。海からあがった生き物が、虫になり鳥になり獣になり人になり、さらに細…

TOKYO STYLE

あのころ、本はわたしの窓だった。学校帰りの夕食までの数時間、池袋のリブロやアール・ヴィヴァンで、いくつもいくつも窓をひらく。地下に広がる回廊のような店内は、手のなかにだけ窓がある、暗くて明るい場所だった。 金はなく、時間は無駄にある日々に、…

バイバイ、レンゲ畑

早稲田・古書現世の向井さんが編集しているメルマガ「早稲田古本村通信」に「バイバイ、レンゲ畑」を書きました。メルマガを読んでいない方のために、こちらにも転載いたします。早稲田古本村通信の登録はこちらから:http://www.mag2.com/m/0000106202.html…

Y字路

向田邦子を教えてくれたのは、高校二年と三年の同級生だったA子だ。席が近かったのと、下から数えたほうが早い成績が近かったのとで、話すようになったのだと思う。将来文章を書く人になりたい、と言っていたA子は、学校の成績は悪かったがよく本を読み、…