断片日記

断片と告知

富士はどこ

天気がいいので散歩をする。西武池袋線練馬高野台駅からぽくぽく線路沿いを歩き、一駅先の石神井公園駅そばのラーメン屋まで歩く。座敷のあるラーメン屋は珍しい。せっかくなのでサンダルを脱ぎ、座敷に上がり、座布団の上にどかりと座る。瓶ビールと餃子を頼み、それを食べつつ新商品と壁に紹介されていた担々焼きそばも頼む。焼きそばの上に辛みそのひき肉がのっている。かき混ぜて食べると、なかなかうまい。それにしても、大盛りだ。その前にパンを食べていたことを抜きにしても、この量は多い。この食べた分を消化しようと、銭湯を目指す。
石神井公園駅から徒歩10分の銭湯「富士の湯」へ。広い敷地の中に、駐車場もあるし、コインランドリーも独立してあるし、なによりも、どーんと建っているお寺のような、老舗旅館のような大きな銭湯に圧倒される。玄関も広い。脱衣所も広い。ロッカーの数が少ないからか、脱衣籠を使う人が多いのがイマドキ珍しい。脱衣所と洗い場の仕切りの磨りガラスに家紋の模様があるのも珍しい。これは確か「下り藤」という名前ではなかったか。この銭湯には、関西ではたくさん目にしたベビーベッドらしきものがある。関西のベビーベッドは、ベッドとして独立して脱衣所の片隅にあったりするのだが、東京のベビーベッドは、脱衣所の壁の一部が襖なしの押し入れのようにへこんでいて、そこに小さな布団がひいてあったり、赤ちゃん数人分の仕切りがあったりする、ベビーベッドと呼んでいいのかどうかもわからない、あいまいなベッドなのだ。しかも、最近では使う人がほとんどいないのだろう。ここ富士の湯でも、4人分の仕切りのあるうちの1つにショーケースが置かれ、中には櫛やタオルが並んでいる。脱衣所から、小さな日本庭園が見える。小さくてもちゃんと池があり、その中には真っ赤な金魚か鯉がいて、その向こうには石灯籠まである。縁側に出て、その庭をすぐそばで見ることもできる。庭のある、もしくは昔はあった銭湯は多いが、ちゃんと手入れしている庭のある銭湯は実は珍しい。大抵は、池が干上がり、草が茫々で、いやそれよりも庭を潰してコインランドリーになっているところも多い。仕方がないと思う反面、ちゃんと手入れしている庭のある銭湯はやっぱりいいなと思う。どこもかしこも大きく広い銭湯なのに、なぜか洗い場だけは普通の大きさ。湯船も、小さめの泡風呂と、ジェットのついている大きめの風呂の2種類しかない。どちらの湯も無色透明で、薬湯のない風呂というのも、そう言えば珍しい。古い銭湯だと思うのだけれど、洗い場だけはイマドキに改装されている。富士の湯なんだから、当然正面のペンキ絵は富士山でしょう、と期待するが、小さなタイルで描かれた木のような林のような模様でつまらない。富士の湯なのに富士はなし、とがっかりしていると、洗い場から裏のボイラー室に抜ける扉が目に入る。普通は木戸だったりするのだが、ここは木枠に磨りガラスの引き戸で、その磨りガラスの部分に、富士と松林と小さな帆掛け舟の模様がくっきりと彫られている。この引き戸は、改装前の名残だろう。その小さな富士山を眺めながら湯船につかるので、満足としよう。
富士の湯
ちなみに男湯の日本庭園はもっと広くて、でかい鯉が泳いでいて、お太鼓橋まであるらしい。ちなみに、なんとその泳いでいる鯉を、洗い場の一部ガラスになっている壁から見ることができるらしい。ずるい。うらやましい。