断片日記

断片と告知

誕生日でした

行こう行こうと思っていたのになかなかいけなかった場所、そんな場所に今日は行ってみようと思う。
地下鉄に乗り後楽園で降りる。ラクーアの中にある、ムーミンカフェでパンを買う。チーズの入った細長いパン。それを齧りながら缶ビール片手に水道橋まで歩く。秋晴れ、という言葉が相応しい、気持ちの良い天気。日差しが強いのに湿気がない。歩くのに適した日だ。水道橋の線路下をくぐり、しばらく歩くと食堂アンチヘブリンガンに着く。ランチタイムのメニューをじっと見て、春菊のペーストのパスタと瓶ビールをお願いする。待っている間、店内を見回す。まず窓際に並ぶ本棚が目に入る。そのままテーブルが、椅子が、天井が、壁が、キッチンが、1つずつ、目に入ってくる。内装はアンティークス・タミゼさん。そこにアンチヘブリンガンの味が混ざり、お洒落なのに居心地が良い、センスがいいのに息苦しくない、という奇跡のような空間が出来上がっている。春菊のパスタを食べる。春菊の渋みも灰汁もなく、こってりとした緑のペースト。つるつると食べ、皿の下に残ったペーストも付け合せのパンでさらって食べる。おいしい。壁や天井からぶら下がっているいろんなものを見ていると、細長い布の袋が目に入る。何に使うものだろう、と手に取ってしげしげ見ていると、サラミを入れる布袋だと教えてもらう。外国のメーカーのそのサラミを買うとこの布袋に入ってくるそうで、それにしてもこの布袋、長さが1メートルくらい、円の直径が10センチくらいある。そんなでかいサラミがこの世にあるなんて、ちょっと楽しい。もし良かったら、とその布袋をいただいてしまった。アンチヘブリンガンさん、どうもありがとうございました。そしてご馳走さまでした。そうそう、「第4回 四月と十月」展が10月27日から11月17日まで行われます。食堂なので、展示を見るのには飲食代がかかりますが、おいしいご飯を食べて展示も見られるなんて、こんな良い事ありません。楽しみです。
御茶ノ水の裏道を歩き、秋葉原を通り過ぎて、上野広小路の裏にある銭湯「燕湯」に行く。ここは、朝の6時から夜の20時まで営業という、朝風呂バンザイ派にはうれしい銭湯だ。御徒町の問屋や雑居ビルに囲まれてひっそりとあるものの、ここは銭湯でははじめての「登録有形文化財」に指定された銭湯なのだ。中に入って驚いたのは、意外と天井が高かったこと。周りのビルたちが高いからか、外から見たときはそんなに大きく見えなかったのだ。天井は高いけれど、脱衣所も洗い場もこじんまりしている。敷地が狭いのは、都会の銭湯の宿命ということで、仕方がない。洗い場に入って驚いたのは、湯船の奥に溶岩でできた滝ができていること。正面のペンキ絵が男湯と女湯をまたぐようにしてある富士山なので、まるでそこから流れてきたように見えなくもない。湯船に入ってこの滝を見上げると、圧倒されるほどでかくて高い。滝の部分は常にお湯が流れ落ちていて、そこだけ湯垢が茶色く盛り上がり、何に似ているかと言えば、鍾乳石に似ている。溶岩をよく見ると、所々に青いペンキがくっ付いていて、この溶岩によじ登って富士山を描くのはさぞや骨の折れることだろう、とペンキ職人さんの苦労を思う。変わっているのはこれだけでなく、湯船がギターのボディのような曲線を描いていること、天井の明り取りの窓が、左右だけでなく正面にもあったこと。そんなところが目に付く。全体的に古そうな銭湯だけれど、洗い場のタイルなんかはイマドキのものに改装されている。脱衣所で着替えていると、ロッカーの上のショーケースに目が行く。銀で作られた、指輪や、ネックレス、携帯のストラップが並んでいる。ここの銭湯の誰かの作品なのか、卸問屋さんか何かに頼まれたのか、銭湯の脱衣所にアクセサリーが売られているというのも珍しい。
不忍池、上野公園を散歩する。湯上りのさらさらとした肌が気持ちがいい。上野動物園の入り口横にあるピザ屋で休憩。サラミピザを食べながら、上野を歩く人たちを見る。どこの町にも、その町の色があるけれど、上野はまた独特な町だ。この町を歩く人は、みんな昭和の雰囲気を漂わせる。観光客も地元民も学生も子どもも、この中にいると一昔前の空気をまとう。どうしてだろう。
JRに乗り、上野から四ツ谷まで行く。四ッ谷駅から歩いて10分くらいか。銭湯「塩湯」に行く。何ヶ月か前に来たときに定休日で入れなかったここ。やっと入りに来ることができた。正面はイマドキのビルの1階にある銭湯に見えたけれど、中の洗い場に入ると、壁や天井は木造で、おや、と思う。正面だけ改築したのだろうか。洗い場の一部には別料金のサウナスペースが設けられ、そのせいで、洗い場の形が「く」の字型になっている。湯船は、水、泡、ジェット、備長炭、と4種類ある。備長炭の風呂につかりながら、壁のペンキ絵を見る。大きな四角いタイルの上に細かい筆のタッチでアルプスのような山脈が描かれている。遠くに見えるその山並みは遠近法からか薄紫色に描かれているのは良いとして、手前に描かれている川のその両岸や岩が土剥き出しのように茶色く描かれている様は、土石流でもあったのか、と思わせる。もっと緑の大地を描いたほうが良かったんじゃないの、と思わなくもないが、面白いので良しとする。
新宿まで歩き、行きつけの沖縄料理屋で、いっぱいやる。銭湯の後の、オリオンビールの生は、最高である。今年もいい誕生日を過ごすことができました。幸せものだと、つくづく思う。
食堂アンチヘブリンガン
燕湯
塩湯