断片日記

断片と告知

朝6時起床。本当にこれから朝は来るんだろうか、と思うほど12月の朝は暗い。目を覚まそうとお茶を飲みつつテレビを見る。NHKでは「あの人」という早朝番組で「やっぱり“これでいいのだ”〜赤塚不二夫〜」をやっている。戦後、満州から引き上げてきて、母親の実家に世話になっていたものの、引き上げものといじめられていた少年時代。学校は農家の繁忙期になると授業をせずに教科書のほとんどが手付かずだったこと。そんな田舎のにーちゃんがトキワ荘に来て、天才たちを目の当たりにし、本当にあせった、僕の人生はあの時からはじまった、と語る赤塚不二夫の生前の映像が滅法面白く、このまま最後まで見続けたい衝動に駆られるが、諦めて仕度をする。7時に家を出る。池袋駅構内で朝からやっているおにぎり屋で塩とおかかのおにぎりを買い、新木場直通の埼京線に乗る。年末の、早朝だというのに、電車はすでに混んでいる。国際展示場駅に近づくにつれ、車内のコミケ濃度はほぼ100%に近づいていく。国際展示場駅で降り、ホームから改札に行くまで、改札を出て東京ビックサイトに行くまで、ビックサイトに着いてナンダロウさんのブースに着くまでに、今日一日の体力の半分は使いきる。夏コミで見て知っていたとはいえ、何度見ても体験しても、この黒い絨毯のような人込みには慣れることができない。ブースに着くとすでにナンダロウさんがいて、出来たばかりのミニコミ「山からお宝」を並べている。その横に夜なべして作った私のミニコミ「オ風呂ノ話。」を置かせてもらい、さらにその横に、ナンダロウさんの教え子・和光生3人組が作ったフリーペーパー「便所便り」を置く。風呂と便所、偶然とはいえその組み合わせの妙にうれしくなる。まだ開店前、すでに壁際にはどこかの人気サークルに並ぶ人たちの巨大な列が出来ている。係りの人たちに誘導され、数十人ずつ右手を上げながら移動していくその人たちを見て、何かの宗教に似ているなと考えていたら、漫画「20世紀少年」の「トモダチ」にそっくりなことに気づいて、ナンダロウさんと笑いあう。開店前にはスタッフが各ブースを周り、注意事項を伝えていく。そのとき、各ブースで売られるミニコミを必ず1冊ずつ提供する。この広大なビックサイトを埋め尽くすブース全てから集めたミニコミが、いったいどこにどうやって保管されているのかがとても気になる。10時、コミケ開始。チャイムとアナウンスが流れ、会場内は拍手に包まれる。この一瞬の和やかさと一体感がかなり気持ち悪いのだが、毒を食らわば皿までいったれ、とにこやかに拍手をする人たちに自分も混じる。まだ午前中、西のこのブースの周辺にはそんなに人がいないのに、ミニコミはポツポツと売れていく。前回の「死闘篇」よりも確実に売れていく。風呂・銭湯というキーワードが、わかり易く手に取り易くしているのかもしれない。ナンダロウさんに店番をお願いし、和光生のYさんと、前回見逃したコスプレ会場を見に行く。コスプレ会場は第一と第二に分かれている。とりあえず第一会場を見てみますか、とわざと迂回するように作られている複雑な道順を辿って会場まで行く。ここもまだ空いている。ビックサイトの外、公園のような場所に、コスプレをしている人たちがポツポツと立っており、その前には大きなカメラを抱えた人たちが並んでいる。かわいい人の前には長い列が出来ている。そうでない人の前には列がない。顔は普通でも露出度が高い人の前には列がある。なんとわかりやすい人間の欲望の縮図。カメラマンは、自分の番がくると、お願いします、ときちんと頭を下げてから撮影をはじめる。コスプレイヤーは、カメラのシャッターがきられている間中、様々なポーズをとって、その期待に答える。どちらも真剣そのもの。その姿を見て、プロだ、プロだね、とYさんと囁きあう。ナンダロウさんのブースに戻り、店番を代わる。ナンダロウさんのミニコミ「山からお宝」を手に取る人はほぼ必ず、自分の部屋にも本を積んでいる人たちだ。うちもこうです、見ていると身につまされる、増えていく本ってどうすればいいんでしょうね、と口々に言っていく。中には、携帯で撮った自分の本の山を見せてくれる人もいる。これが全部BLの雑誌です、と部屋1つが雑誌で埋もれている写真。これ以外に、BLの漫画の部屋、BLの小説の部屋があります、と3部屋全てがBL関係の本で埋もれていると説明してくれる。そこはまるでボーイズラブ図書館。いったいこの人はなにものなのかと、山よりもその人自身に興味が湧く。夕方、おにぎりの差し入れと共にピッポさんが遊びに来る。このときドストエフスキーの「罪と罰」の登場人物のコスプレをしていたそうなのだが、たぶん会場内誰一人としてわからなかったはず。4時の閉店近く、「オ風呂ノ話。」が完売する。完売しました、と書かれた紙がぺろっとブースに貼ってあるのが憧れだった。昨日、夕方4時にやっと全ての文章が書き終わり、その後夜中までかかって製本した19冊。冊数は少ないとはいえ、完売は完売。うれしかった。買ってくださったみなさん、どうもありがとうございます。4時過ぎ、会場を後にし、神保町へ向かう。三省堂に「山からお宝」を納品するナンダロウさんに付き合い、その後近くの焼き鳥屋で今日の打ち上げをする。「山からお宝」と「積んでは崩し」が合わせて100冊以上も売れたナンダロウさんは、ほくほくしている。完売した私もホクホクしている。次に出すミニコミの構想などを話合いつつ、和光生YさんAさんの悩みなど聞きつつ、お開きとなる。みなさま、お疲れ様でした。その後、高田馬場に行き、立石書店の忘年会に途中参加する。向井さんの仙台の話、ピッポさんのコスプレの話を聞いているうちに眠くなってくる。年末という気が全くしないが、こうして今年1年が終わっていく。そう言えば、今日、久しぶりに海を見た。コスプレイヤーとそれを撮影するカメラマンの後ろに、光る東京湾を見た。