断片日記

断片と告知

ニュー椿

都電で行くこともできたが、なんとなく歩いて行く。サンシャイン60の裏を抜けると向原駅、線路沿いを下がって行くと大塚駅大塚駅のロータリーから枝分かれしている道のひとつを北へ向かって歩いて行くと都電の新庚申塚駅に出る。太くも細くもない緩い坂道。駅からも大きな通りからも離れているのに小さな商店がぽつぽつと続く。都電の線路は左手の住宅街の中で、近づいたり遠ざかったりを繰り返す。草思社と看板を掲げたビルの前を通る。馴染みのある出版社を散歩の途中で見つけると、うれしくなるのはなぜだろう。
白山通りに出る。左手には都電の新庚申塚駅が、通りの向こうには銭湯「やすらぎの湯 ニュー椿」がある。大きなビルの壁面に、これまた大きく「ニュー椿」の文字と椿の絵が見える。看板の見取り図を見る。2階和風露天風呂、3階洋風露天風呂、4階ラウンジ。2階と3階は日替わりで男湯と女湯が入れ替わる、とある。階段をのぼって、入り口は2階。入るとすぐ券売機がある。正面にフロント、右手に下足箱、左手にベンチのあるロビー、2階の脱衣所の入り口、3階4階へ行くエレベーターがある。本日は2階が女湯。脱衣所にはロッカーが整然と並ぶ。100円リターン式なのが銭湯にしては珍しい。明かり取りの窓にはまる障子がびりびりに破けたまま放置されているのが妙に目を引く。
洗い場に入る。入り口の壁と並行に島カランの列が2列か3列か並ぶ。カランの稼働率が90パーセント以上で、空いているカランを探すのに苦労する。これほど活気のある銭湯は久しぶりで、混雑しているのが逆にうれしい。湯船は右手壁面に、薬草風呂、泡、ジェット系が並ぶ大きめの風呂。正面の外には和風露天風呂。左手には別料金のサウナの入り口と水風呂がある。和風露天風呂は石造りで都心の露天にしては広いが、高い塀で囲まれていて、深い井戸の底から空を見上げているように思う。
ジェット風呂、水風呂、露天風呂、水風呂、薬草風呂、水風呂、と暖と冷を繰り返す。湯に浸かりすぎて魂が抜けそうになる直前に水風呂に入る。一瞬にして、抜けかけていた魂の尻尾をぐいとつかまれ、連れ戻されて正気に戻る。はまるとこの繰り返しが止められなくなる。この入り方を教えてくれたのは、食堂アンチヘブリンガンのお2人だ。
来た道を大塚まで戻る。大塚の繁華街には角海老ボクシングジムがある。1階の道に面したガラス張りのジムなので、闘う男たちを見る見物人がいつも絶えない。缶ビールを飲みながら、その見物人たちのひとりに混じる。夕暮れの中、気持ちのいい風が吹いている。
やすらぎの湯 ニュー椿