断片日記

断片と告知

御会式

御会式は、日蓮上人の命日に合わせた法要で、毎年10月16・17・18日におこなわれる雑司ヶ谷最大のお祭だ。16日は町内周り、17日は護国寺そばの「お穴の鬼子母神」と呼ばれる鬼子母神のご本尊が発掘された場所から目白通り雑司ヶ谷鬼子母神堂まで、18日は池袋駅前から明治通りを同じく鬼子母神堂まで、太鼓を打ち鳴らしながら歩く。先頭はそれぞれの「講」の名前が入った提灯を掲げる人、その次が纏をふる人、そして太鼓や鐘を叩く人、最後に万灯と呼ばれる巨大海月のようなものを支える人、の順番でひとつの組になっている。太鼓のリズムは3種類あり、町を練り歩くときは「源太」、鬼子母神の本堂でお経とともに叩くのは「南無妙法蓮華経」、お参りあとに叩くのは「蛍こい」と呼ばれている。ただこの名称がうちの町会の講だけのものなのか、全講共通のものなのかはよくわからない。頭には手ぬぐいを巻き、上半身は派手な鯉口シャツで飾り、下半身は紺色のぴたりとした股引をはき、足には雪駄をつっかける。この姿で固めると、なぜか全員やんちゃな人間に見えるから不思議だ。おじ様は親分に、おば様は極妻に、若いにーちゃんねーちゃんはヤンキーに見え、雑司ヶ谷はこんなやんちゃな人たちばかりの町なのかしら、とこのお祭をはじめて見た人たちの多くは勘違いをするが、実際は肉屋のタケちゃんであり、履物屋のナオコちゃんであり、つまりは一般市民なのだ。1年のうちの3日間だけ普段まじめに働く人たちがやんちゃになれる、そんなお祭が御会式なのだ。どこか遠くの町に越していった人たちも、この日だけは鮭のように生まれ育った雑司ヶ谷に戻ってくる。大きなお祭のある町に生まれた人たちはみんなそうに違いない。そして大きなお祭のある町に生まれて良かったと思う。