断片日記

断片と告知

東京の雪

東京の雪というものは、夜遅くまで飲んだ帰り道ふと空を見上げなんだか白い灰みたいのが舞っていてもしかして雪かもと思いつつもそのまま家に帰って寝て朝起きてみればぴかーんと空は晴れ渡り朝のニュースで昨夜遅く東京で雪が降りましたなんてぐらいがいつもの調子なのだが、今日は違った。
「雪だよ」という電話で起こされた。大げさな、と外を見てみると前の家の屋根の上に、木に、道路にぽってりと積もっている。しかもまだ降り続いている。
お風呂セットを持ってひばりが丘の銭湯「みどり湯」に行く。銭湯の露天風呂で雪見風呂、そんなことができるチャンスは東京ではめったにない。今までいくつかの銭湯の露天風呂に入ってきたけれど、露天とは名がつくばかりのものも多い。外が一切見えず外気が入ってくるだけ、屋根の一部が開いていて空が申し訳程度に見えるだけ、天窓が空いているだけ、など土地の狭い都心でがんばって露天を作っているものの、どれもちょっと寂しい感じ。でもここ「みどり湯」の露天は違う。どーんと外なのだ、空なのだ。
週替わりで「睡蓮」と「雲海」が女男で入れ替わり、今日の女湯は「睡蓮」。前回も前々回も「雲海」だったのではじめて入る「睡蓮」にどきどきする。洗い場は入り口以外の3面の壁にカランが付き、浴槽は洗い場の真中にどーんと鎮座している。変わっている。正面の壁のペンキ絵はどこかの池に鴨の親子と睡蓮の図で遠くに赤いお太鼓橋という不思議な絵。変わっている。湯船はジェット系のいくつかと電気と薬湯と水風呂に仕切られている。ヒップアップエステというお尻を下から持ち上げるようにジェットが噴射するのを試してみる。あまりにものすごい勢いで尻が2つに割れそうになる。薬湯も試してみる。本日は行者の湯と書いてある。薄い茶色いお湯。白いネットの中には茶色いなんとも言えない匂いのものが大量に入っていて、行者の湯の正体はわからないものの何かに効きそうな気がする。そして本日のメインイベントの露天風呂へ。「雲海」の露天は岩風呂なのだが、「睡蓮」の露天はタイルのお風呂。広い、ここに来て良かった。ステンレスの筒状の枕とちょっと斜めになったタイルの上に体を横たえて入る寝風呂もついている。お湯の中で寝っころがりながら降り続く雪を見る。極楽である。屋根の上に積もった雪が、時々堪え切れなくなってどーんと落ちる。湯船の中に落ちた雪の塊は一瞬でしゅわーっと泡を出しながら消えていく。上から落ちてくる雪を直前で受けとめたいと目を凝らして今か今かと待ち構えるのだけれど、何かでちょっと目を離した隙に必ず落ちてしまう。きっとそうゆう人生なんだろう。
みどり湯