断片日記

断片と告知

熱帯魚

よく歩く道に熱帯魚屋がある。ガラスの引き戸越しに見える店内は蛍光灯で明るく照らされ、店内を埋める水槽も水槽用の明かりでひとつひとつ丁寧に照らされている。しかし、この店で水槽の中を泳ぐ魚を1匹も見たことがない。水槽を売る店なのかとも考えたが、看板にはきちんと熱帯魚の文字がある。
ある日店の前を通ると、店主らしき男がひとり作業している。店の外に放置されている水槽に手を突っ込んでは、水草を数本抜き取り、銀色の針金で茎を束ね、水色のプラスチックの桶に放り込んでいく。水草でいっぱいになった桶は、水草・・円と書かれた紙が縁に貼られ、店の前の路上に投げ出すように置かれている。値札の紙だけが頼りなく風でゆれている。