断片日記

断片と告知

赤かぼちゃ:倉敷滞在3日目その1

8月11日。倉敷滞在3日目その1。
8時半、ホテル1階のバイキングへ行くと、すでに王子が朝飯を食っている。今日行く直島の飯屋状況がわからないから朝飯はしっかり食べよう、と昨晩誓っていた気もする。バイキングには毎日違ったスープが出るが今日はミネストローネ、もう3杯目です、と王子。何時から来て食べていたのか昨日食いそびれた分も取り戻す勢い。
岡山駅まで歩き、昨晩蟲さんに教えてもらった土産物、大手まんじゅう、を売店で確認し、マリンライナーに乗り茶屋町へ、乗り換えて宇野まで行く。570円。近くに競輪場があるのか、電車の中で競輪新聞を広げるおじいちゃんふたり、かなわんぞ、赤字ぞんじゃ、と息継ぎのない岡山弁で延々と話している。おじいちゃん、おばあちゃんの話す、早口の岡山弁は、てれれれ、てれれれ、とピアノの練習曲のようで、半分以上何を言っているのかわからない。慣れない耳には言葉というより延々につながる音に聞こえる。
茶屋町から宇野までの間、車窓から見える駅のほとんどが無人駅、無人改札だった。ホームがあり、改札というよりなんとなくの仕切りがあり、その向こうはすぐ町だった。切符売場もないように見えた。電車の中には、整理券、と書かれた機械がドアのそばにあり、あそこから出る整理券で降りた駅で清算するのか。その土地土地の電車のルールにはいつも戸惑う。岡山駅からスイカで入ったけど平気かしら、と王子がそんな風景を見て心配している。終点宇野駅有人改札だった。自動改札ではない、駅員さんに切符を渡す、という行為がなんだかとても懐かしい。王子のスイカは、駅員さんの手に渡り、奥の機械で、ピッ、と読んで無事だった。
宇野駅から、フェリーの出る宇野港まで歩く。歩いて5分くらいか。直島、と大きく書かれた赤い看板が駅から見える。フェリー乗り場で切符を買う。直島まで片道280円だが、往復買うと540円とわずかに安い。それならばと往復切符を買う。港は広いがフェリー乗り場は小さく、それだから人がごった返しているように見えるが、大きなフェリーに乗ってしまえばそれほど混雑もしていない。せっかくだから景色のよく見える屋外のデッキ席に座り、瀬戸内海の太陽に肌をじりじりと焼かれる。目の前に停泊している豊島行きのフェリーはがらがらに空いている。船から島々を眺めながら、どれが直島だろうか、と話す。そして港からずっと見えていた草木もまばらな大きなが島が直島だったと、その港に入って行くフェリーで知る。
宇野港から見える側の直島は、草木もまばらで地肌が見えて荒涼としている。ぐるっと回ったところにある船着場のある側は、何かの工場があり民家が並びその向こうに小さな丘が見え、人がきちんと生活している島に見える。船着場のすぐ横に、草間弥生の赤いかぼちゃがでんとあり、これを見ると直島へ来た、という気がする。だからなのか、フェリーから降りた客はたいていすぐにそこに行き、かぼちゃに触り中に入り記念撮影をする。当然わたしもそうして遊ぶ。かぼちゃの中は真黒で、ところどころに開いている丸い穴からは瀬戸内の海が見えた。
続く。