断片日記

断片と告知

中落ち仙台1日目

朝8時半起床、9時半に家を出る。池袋駅の山手線のホームに着くと、この旅の同行者、古書現世のパロパロ向井が人待ち顔で立っている。パロパロ向井は「火星の庭」の前野さんたちに会いに、わたしはさらに、前回の仙台行きでうまくて悶絶したマグロの中落ちの軍艦を食べに、1泊2日で仙台に行く。10時過ぎに上野に着き、新幹線に乗るときなぜか食べたくなる、カツサンド、と缶ビールを買い、10時半発の仙台行きの新幹線に乗る。往復の新幹線代とホテル代込みで14300円のこのツアーは、安いけれども、2階建て新幹線の下の階にしか乗れず、駅に着けば目の前にホームのヘリと人の足、走り出しても防音壁と空しか見えない。
12時半仙台着。まず向かう先は「火星の庭」ではなく、この旅の目的のひとつ、マグロ中落ち軍艦の食べられる寿司屋。仙台駅内には、牛たん通り、すし通り、という通りがあって、細い通路の両脇にうまそうな店が並んでいる。この中の、立ち食い寿司屋で食べた軍艦が忘れられず、仙台に着いたら昼飯はまずそこ、と宣言していたのだ。寿司屋のカウンターに身をすべらせ、中落ちを頼む。中落ちの軍艦はあいかわらずの山盛りで、しかし前回のほうがうまかった、そんな気がする、と食べるたびに思ってしまうのはどうしてか。それでも、酒も飲まず、立ち食いなのに、ふたりで5000円以上昼から食い散らかす。マグロの中落ち軍艦は1貫200円。あら汁1杯100円。
駅に隣接するパルコに行く。ここでは「ブロカントギャルリーSendai」という雑貨と古本の催しがおこなわれていて、仙台に来るたびにお世話になっている「火星の庭」さんや「マゼラン」さんが古本部門で参加している。「火星の庭」の前野さんとはここで待ち合わせ。棚を見ていると、ムトーさん、と声をかけられ抱きしめられる。土産に買ってきた、鬼子母神のすすきみみずく、小倉屋の煎餅、赤丸ベーカリーのラスク、を渡す。さてこれからどうする、と前野さんの提案で、東北大学の生協にできた「ブックカフェBOOOK」に、前野さんとパロパロ向井は車で、車嫌いなわたしは歩いて行くことにする。前野さんに「BOOOK」の場所を聞き、パルコの似合わない男・パロパロ向井をベンチに捨てて、一足先に歩き出す。
駅前から、ハピナ、クリスロードマーブルロード、とアーケードの商店街を歩いて行く。天井からサンタの衣装を着た、巨大な仙台四郎がぶら下がっている。アーケードを抜け、右折して広瀬通りに、広瀬川に架かる大橋を越え、宮城県立美術館の前の十字路に出る。十字路を左折して、次の角を右折する。緩やかな坂道が山に向かって続いている。すでに右も左も東北大のどこかなのだが、「BOOOK」のある工学部青葉山キャンパスはまだ遠い。山道のような車道を、延々と登っていく。山の中に、やけにおしゃれに建て替えられた校舎が目立つ。たまに途切れる木立の向こうに、仙台の街が見える。まだ着かないのか、この道であっているのか、と不安になった頃、車道から外れた山道を降りてくる学生を見つけて道を聞く。このまま車道を歩いても行けるが、いま学生がおりてきた山道を登っても行ける、と教えてもらう。迷わず山道を選ぶ。細い石段の続く道を、落ち葉を踏みながら登っていく。落葉樹の多い山は豊かに見える。落ち葉を踏む音も、目に入る色も。
不安になる頃、木々の向こうに校舎が見える。どこかの学部のゴミ捨て場の裏に出る。工学部の生協は、と道行く人に2回訪ね、やっと「BOOOK」にたどり着く。建て替えたばかりのおしゃれな生協の中に、セレクト本屋「BOOOK」がある。車で来た前野さんとパロパロ向井が、併設するカフェでお茶を飲みながら、わたしを待っている。来る途中、車道を歩く人がムトーさんだと思って車の窓からよく見たら男の人だったのよ、と言いながら前野さんが笑っている。「BOOOK」の棚を見る。照明が暗く感じるのは、明るい外を歩いてきたせいか、立ち並ぶ背の高い本棚のせいか。セレクト本屋らしい棚もあるにはあるが、大学の教科書が並ぶ棚のほうが多く、そんなところに街のセレクト本屋との違いが出ている。手帖やTシャツなど、東北大のオリジナルグッズを売る棚もあった。
帰り道はタクシーに乗る。時間をかけて登った道を、車が一瞬でおりて行く。車道の脇におしゃれな校舎が点在している。昔は学生運動の激しい大学だったんだけどおしゃれに去勢されちゃったのよ、と前野さんが言う。
夜7時、「火星の庭」に行く。酒瓶を抱えた仙台民が徐々に集まり、宴会がはじまる。前野さんの作る、そば粉のクレープを食べられる幸せ。いつもは古本市を兼ねて遊びに来るので、搬入だ、撤収だ、その間に宴会だ、と忙しく、すでに何度か顔を合わせているのに、ちゃんと話し飲むのははじめましてて、という人が多い。やっと、ひとりひとりの名前と顔が、一致する。ジュンちゃんは、どぶろっく、という名の濁酒を、朝の牛乳のように飲み続け、1時間ほどでぶっ倒れる。並べた椅子の上に寝転がりながら、何かの夢を見てひとり笑っている。深夜2時過ぎまで飲み続け、酒で倒れた奴らのためにタクシーを呼びとめ、解散となる。酔っ払いたちをタクシーに押し込む。手を振って見送った後で、「火星の庭」の店内に、酔っ払いたちの財布と荷物がそのまま残されているのを見つける。
http://www.coop.org.tohoku.ac.jp/tempo/bookcafe/info.html