断片日記

断片と告知

中落ち仙台2日目

チェックアウトは11時とゆっくり。朝風呂に入り、ぼんやりとテレビを見てから、ロビーにおりる。ソファにはすでにパロパロ向井の姿。ドラマの「ママはニューハーフ」を見ていたと報告すると、パロパロ向井は時代劇の「あばれ八州御用旅」を見ていたと言い、オレもそっちが見たかった、と羨ましがられる。ホテルを出て、朝飯兼昼飯の中落ち御前を食べに、前野さんとの待ち合わせ場所、森トラストタワーまで歩く。昨日ホテルに着いたときには暗くてよく見えなかった公孫樹の木が、昼の光の中で、まっ黄色に燃えている。歩くたびに、仙台の街はきれいだと思い、東京の池袋に帰った途端、この街はこんなに汚かったっけ、と思う。
仙台の民芸店で、通信用のこけし、を買い、森ビルを目指す。ビルの入り口で前野さんが待っている。以前、仙台朝市にあった、中落ち御前を食べさせる飯屋、が移転し、いまは巨大な森ビルの中に入っている。でも値段も量も変わらないのよ不思議ね、と前野さん。こんにちは、と前野さんが店に入るとすぐ、こちらへどうぞ、と個室に通される。数量限定、山盛りのマグロ中落ち御前は700円と格安で、しかもご飯食べ放題といううれしさ。中落ちはもちろんだが、飯も味噌汁もなにもかも美味い。当然ご飯はお替りをする。
ジュンク堂書店仙台ロフト店を眺め、「火星の庭」まで歩く。昨日会えなかった健一さんが厨房にいる。お茶をご馳走になる。昨晩の飲み会に来なかった桃太郎くんが遊びに来る。桃太郎くんとは前々回の仙台行きですでに会っているのだが、わたしが酔っ払って道で寝ていたりしたものだから、まともに話した記憶がない。美味そうな「火星の庭」特製タコライスを食べる桃太郎くんに、もっと怖い人たちかと思ってました、と言われ、世の中の人から自分がどう見られているのかを知る。ひどい人だが怖い人ではない。
パロパロ向井を「火星の庭」に残し、銭湯に行く。歩いて20分くらいか。線路を越えた駅の向こう側に、銭湯「喜代の湯」はある。大きなアーケードや商業ビルの建ち並ぶ賑やかな西口に比べ、東口の、駅から離れたこの辺りの殺風景さ。造り途中の大きな道路、まばらに建つビルと空き地、が目立つ。見落としてしまいそうな殺風景なビルのひとつに、第一喜代の湯ビル、とプレートが貼ってある。1階はコインランドリーと喫茶店、その間の通路を抜け、公衆浴場と書かれた看板のある、暗い階段をのぼる。2階までのぼり、廊下を覗きこんだ先に、暖簾のさがる入り口を見つける。自動ドアの入り口を抜ける。小さな玄関の両脇に下足箱、左手にフロント、そして正面から右手にかけて大きなロビーがある。ロビーには、広い座敷もテレビもひと昔前のゲームまであるが、どれも電気が消えていて暗い。仙台の入浴料、大人ひとり400円。
暗いロビーの奥に、女湯の入り口がある。入ると一転して明るい脱衣所。ロッカーはスチール製で色はオレンジ、美術館にあるような、100円バック式の鍵が珍しい。そしてもっと珍しいのが、服を脱いだあと、1階の洗い場まで、裸のまま階段をおりていくこと。脱衣所が2階、洗い場が1階という銭湯は今まであったかなかったか。もちろん男女別だが、フツーの階段を、裸でのぼりおりすることが、なんだか妙に恥ずかしい。
1階の洗い場は、地下でもないのにぼんやりと暗い。右手の壁にカランの列、左手に湯船が並ぶ。洗い場の真ん中には、化粧台のような変形島カランがいくつか並んでいる。島カランの両面には、鏡とカランとシャワーがつく、がシャワーはお湯だけ、カランは水だけ、と不思議。壁のカランは水と湯の出が激しく、湯が触れないほど熱い。湯船は、超音波と泡の大きな風呂、楕円形のジェット風呂、1人分くらいしかない円形の水風呂、に分かれている。洗い場の奥にさらに暗い空間があり、よく見ると左手にサウナの入り口、右手にラドンの入り口がある。重い扉を開けサウナに入る。2畳くらいの小さな空間に、階段状の段がみっつ。1番上に腰掛けて汗を流す。反対側のラドンの扉には、管が破裂して使用できない旨が書かれている。そう言えば洗い場の入り口すぐ横にも、半地下の暗い穴倉のような空間があり、これはどうやら全身用シャワーのようなのだが、電気も消え、今は使われている様子がない。開店した頃の、精一杯のハイテクとハイカラを詰め込んだまま古くなった、そんな銭湯だった。
火星の庭」に戻ると、パロパロ向井がぼんやりと待っている。さらに待たせて、近くの酒屋まで、土産用の、どぶろっく、を買いに行く。一升瓶は重いので、その半分のものを買う。「火星の庭」で健一さんに挨拶をし、パルコでブロカントギャルリー撤収中の前野さんとメグたんにも挨拶をする。2日間お世話になりました。
夕飯は、まだ普通の牛たん焼きを食べたことが無い、というパロパロ向井の要望で、伊達の牛たん本店、へ行く。牛たん焼き定食にトロロもつけて、当然のようにご飯はお替りをし、当然生ビールも飲み、当然お腹はいっぱい。でも、仙台のシメはやっぱり中落ち軍艦でしょ、とさらに仙台駅内すし通りの立ち食い寿司屋に行く。2日続けて行ったからか、生ビールを頼むとつまみに、マグロのニコゴリ、を出してくれる。これもうまい。それにつられて軍艦をつまんでいるうちに、結局ふたりで会計3000円以上食べる。はちきれそうな腹を抱えて、新幹線に乗る。仙台からの帰りはいつも夜で、車窓からは何も見えない。真っ暗な中を新幹線が走り、気づくと上野に着いている。仙台は近い、と帰ってくるたびいつも思う。仙台のみなさん、「火星の庭」のみなさん、お世話になりました。また6月に、怖くないですから、一緒に飲んでください。
喜代の湯:宮城野区小田原1-8-5