断片日記

断片と告知

末広湯

12月26日に廃業すると、つぶやきで知った銭湯「末広湯」に行く。品川から京急赤い電車に乗り換え、京急蒲田駅へ。立替中の入り組んだ駅を降り、乗用車よりもトラックが目立つ大きな道路、第一京浜を歩き、環八を渡って左折する。個人商店もなく、チェーン店の目立つ、味気のない景色が続く。環八の何本目かの路地を右折する。路地の奥にあった小さな商店街の豆腐屋さんに道を聞き、銭湯「末広湯」にたどり着く。
煙突も建物もどーんとでかい、唐破風屋根の、古い立派な銭湯だ。暖簾をくぐると、正面に傘入れ、両脇に下足箱。女湯は右手。引き戸を開けると左手に番台がある。
脱衣所の天井は立派な格天井だが、雨漏りか古いせいか、ところどころ木肌が剥げている。棚の上に置かれた観葉植物が天井近くまで葉を伸ばしている。脱衣所の真ん中に、足の長いテーブルがどーんと置いてある。下がロッカーになったベビーベッドが並んでいる。ごつごつした岩が積んであるだけの、殺風景な小さな庭がある。洗い場の入り口のガラス戸に、老朽化のため26日で廃業、と書かれた紙が貼られている。
洗い場の天井が、体育館のようなかまぼこ型、なのが珍しい。正面の壁に富士山と海のペンキ絵。ペンキ絵の左下に白ペンキで、南伊豆、と描かれている。富士山は男湯女湯の中央に描かれており、どちらの湯からも青い大きな富士山が楽しめるのがうれしい。湯船は浅い湯船と深い湯船のふたつ。浅いほうはジェットが付き、深いほうは手前が泡風呂、奥が電気風呂になっている。男湯と女湯の仕切りの壁に、赤い太鼓橋、金魚と鴨、富士山に帆掛け舟、の三枚のタイル絵が貼られている。仕切りの壁は低く、カランに足を乗せれば覗けそうなくらい。古い銭湯はどこも壁が低いが、壁を増築せず、昔のままにしているところは珍しい。シャワーのない島カランが真ん中に1列ある。
湯からあがり、銭湯遍路の判子を、番台に座る女将さんに押してもらう。「末広湯」は昭和26年築。富士山のペンキ絵は、もう亡くなっちゃんだけどね早川さん、と教えてくれた。常連のおじさんの、寂しくなるね、と言う声が、男湯の脱衣所から聞こえてくる。
末広湯:東京都大田区南蒲田2-10-1