断片日記

断片と告知

萎むハワイ

はっちこと、橋本倫史くん編集の「hb paper」003号に、文章と挿絵を描きました。店頭に並ぶのは8月11〜13日頃だそうですが、すでに予約は受け付けています。今なら送料無料だそうです。
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下記は、短すぎて「hb paper」でボツになったもの。せっかくなので、こちらに転載。題は、仙台雑記。仙台で聞いた言葉の寄せ集め。

津波で家を流され、支給された金で、古本を買い集めている男、の話を聞いた。家を建て直すことよりも、流されてしまった蔵書をまた買い揃えていくことが、その男にとっての生活の立て直しなのか、と、そんな話を、仙台で聞いた。
仙台へは、古本市に参加するため、訪れた。昨年にはなかった飲み屋が、古本市会場すぐそばの、壱弐参横丁の中に出来ていた。鉄塔文庫。窓はなく、古本が詰まる本棚に囲まれた壁の間に、小さなテーブルがふたつと、3人も並べばいっぱいのカウンターがひとつ、の立ち飲み屋だ。仙台一うまいというポテトサラダをつまみに、東京から遊びに来た面々と、昼から飲む。電球の傘の下、目の前に並ぶ知った顔。いまが昼なのか夜なのか、ここが高円寺なのか仙台なのか、わからなくなる。
書きかけの原稿、の話が出る。出だしさえ書ければ後は、と目の前の顔が言う。そうそう出だしさえ書ければ楽なんや、と横の顔が言う。堅い蛇口をひねるようなもんなんや、と。手が痛くなるような堅い蛇口と、緩んだ瞬間に噴き出す言葉が、頭に浮かぶ。絵も同じでしょ、と斜め前の顔が言う。そうだねたぶん、とわたしが答える。
古本市で仙台に行くたび、必ず広瀬川を訪れる。はじめて仙台に行った翌朝、「火星の庭」の前野さんと、ふたりだけで歩いた川原が忘れられない。行くたびに同じ川原を探したが、どうしてかたどり着けず、今年は事前に前野さんに電話で聞いた。目指す川原は、探し歩いていた場所よりも、橋ひとつ分、先だった。御霊屋橋と愛宕大橋の間、川沿いの遊歩道。
対岸の切り立った崖に届くかどうか、川中に突き出る大きな石を的に当たるかどうか、川に向かって、いくつもいくつも石を投げる。相手を考えず、ただ力任せに、何かを投げつけることはいつぶりだろう。翌朝、ともに石投げをした友人が言う。昨日投げた石は、全部自分に返ってくるような気がする。大きな石も、小さな石も。