断片日記

断片と告知

夜のコンビニ

食堂のアルバイト帰り、近くの古本屋に顔を出す。いつもの顔が帳場の周りですでに一杯やっている。誰かもう一本飲む人いるー?と声をかけながら、夜のコンビニへ自分の酒を買いに出る。
また酒ですか。
腕に抱えた缶ビールを見て、レジの向こうの彼は必ずこう言う。
彼は、雑司ヶ谷に住む、作家で編集者のピスケンさんと、同じ風呂なしアパートの隣りの部屋に住んでいる。みちくさ市の打ち上げの店に行く途中、店への道がわからないというピスケンさんを迎えに、はじめてこのアパートを訪れた。アパートの戸を開けると小さな玄関から階段が伸び、二階にあがると暗い木の廊下の両側に点々と入り口が並んでいる。おーい、迎えに来たよー。ひと際うるさい部屋の戸を開けると、小さな流しの向こう、机と本しかないような殺風景な畳の部屋から、煙草の煙と酒の匂いが白く濁ってあふれ出す。ほら、行くよー。すでに酔っ払っているピスケンさんとお仲間に声をかけていると、ぼくの部屋ここなんです、とがらっと隣りの戸が開いた。夜のコンビニで会う彼だった。
酒を買ったときは、また酒ですか、と言い、珍しく酒じゃないものを買ったときは、今日は酒じゃないんですか、と言う。どちらにもうなづきながら、ピスケンさんは元気?と聞いてみる。二ヶ月に一度、みちくさ市のときにしか会わないピスケンさんは、二ヶ月に一度見るたびに痩せていく。えぇ、まぁ、と濁ったことばが返ってくる。
みちくさ市の打ち上げやお会式での飲み会に、ピスケンさんとともに彼を誘ったが、二度来て、二度とも酔ったピスケンさんをアパートまで連れて帰ってくれた以来、何度誘っても、えぇ、まぁ、と濁ったことばしか返ってこない。