断片日記

日々の断片と告知

夕方のチャーハン

大学の食堂で夕方4時間アルバイトをしている。絵だけでは食えず、金に困ってはじめた仕事だが、腹を減らして駆け込んでくる学生たちにカレーをよそい、ラーメンを茹でながら、使われた食器を洗いかたしていく作業は性に合っていたようで、気づけば4年経っていた。

日替わり定食などメニューは多いが、カレーやラーメンなどの定番もの以外、夕方にはほとんど売り切れとなる。遅い時間に食堂に来る学生のために、夕方独自のメニューがあればと声があがり、おしるこ、かき氷、ローストビーフ丼など、甘いものからご飯ものまで試した結果、評判がよかったのがチャーハンだった。

夕方4時近くになると、店長がチャーハンを作りはじめる。白飯、ネギ、卵、チャーシューの切れっ端を大きな鍋でぐわっと炒める。油と醤油の焦げる匂いがして、黒胡椒をきかせたチャーハンがあっという間に出来上がる。出来上がったチャーハンをパットに入れ、ラップをかけて温蔵庫で保存する。準備が出来たらショーケースに見本を出す。チャーハン200円、大盛りは50円増し。お好みで紅しょうがもつける。

はじめにショーケースのチャーハンに気づいたのは、よく食堂に来る、常連の学生たちだった。

このチャーハンってどの食券買えばいいの?

200円分の食券ならなんでもいいよ。

急ごしらえの食券を受け取り、温蔵庫から出したチャーハンを丸い型にはめ、中華模様のプラスティックの皿にかぽっと出す。スープもサラダもつかないが、200円という安さと、居酒屋の厨房仕込みだという濃い味付けは学生に受け、よそう手間の少なさと洗いものの楽さでアルバイトからは受けた。

夕方のチャーハンは常連たちの口から広まり、しばらくすると、まだかまだかと学生たちが、夕方の食堂をのぞくようになった。

200円券と50円券1枚は当たり前、50円券2枚で超大盛りにして、と言う男子学生たち。

ダイエットをしているのでご飯は少なめにと言う女子学生たちも、チャーハンだけは何も言わずにきっちり一人前食べる。

食堂のカウンターに200円の食券の列が出来る。大きなパットいっぱいのチャーハンは、1時間もしないうちにたいてい売り切れになる。間に合わなかった学生たちが、もうチャーハンないのかよー、と嘆きの声をあげる。

来年度、春からこの大学の仕組みが変わるから、食堂もどうなるかわからないよ、とだいぶ前から言われていたが、年明けあっけなく、夕方の営業は来週で最後だからと、4年間の終わりを告げられた。

毎日のように来ていた彼らに、夕方の食堂と、チャーハンの終わりを告げたいが、年明けの大学はまだ学生の姿も少なく、彼らの顔もあまり見ない。それでもチャーハンだけは、いつの間にか空になる。

終りを告げられないままの最後の日。食べそびれた学生がいないよう、せめていつもの倍作りましょうよ。店長にそう提案すると、いつもより大きな鍋で、いつもの倍のチャーハンを作ってくれる。これだけあれば間に合うね、と言い合いながら。

いつも通り、夕方4時にチャーハンの見本をショーケースに出す。200円の食券の列を待ちわびる。

大学の授業の関係か、最後の日、チャーハンを食べに来たのはたった3人だけだった。