断片日記

断片と告知

枕詞

金沢でちょっと遠いところ、第7ギョーザとか、レモン湯とか、へ行こうと思うと、勝井さんが車を出してくれる。乗っているあいだ黙ったままでも構わないけど、ちょっと遠いので車のなかでなんか話す。何度も車に乗るうちに、話したことを忘れて同じ話をまた話す。面白い話ばかりなので、同じ話でも気にしない。気にしないけど何回目かで、あ、その話、前にも聞いた、と申告する。最近では、この話前にもしたかもしれないけれど、と枕詞を保険につける。

学生食堂のアルバイトをはじめて4年が過ぎた。新しく入ってきたアルバイトに仕事のやり方を伝えるのも仕事になった。開店準備は早番の人たちが、開店から閉店作業までが遅番のわたしの仕事だ。戻ってきた大量の皿の洗い方、乾燥機への仕舞い方、どうやったら早く楽にできるかを4月から伝えているが、伝わらない人には今年が終わるいまになっても伝わらない。これこないだも言ったよね、覚えてね。

同じようなことばなのに、したかもしれない枕詞はいつでも明るく、したよねの枕詞は言うたび沈む。

これ前にも言ったと思うんだけど。言ってもらえるだけありがたいと思わなきゃね、ねぇねぇ、武藤さん、こないだの即位のパレード、テレビで見ました?彼女は沈むことさえ許してくれない。どこまでも足のつかないプールみたい、彼女の前でわたしはいつも浮いたまま。