断片日記

断片と告知

まどのむこう

野獣派、フォービズム、という絵の表現を知ったのは絵の学校に通っていた20代のころだ。知ったばかりのころはブラマンクやスーチンの絵の激しさに焦がれたが、観続けていくうちに、やがて好みは野獣派に影響を受けた日本の画家たちへ移っていった。赤や緑の激しい色で描かれた外国の景色や人よりも、馴染みのある畑や松の木を柔らかい色で、それでいて大胆な線で描かれた景色は観ていて愉快だった。

野獣派に影響を受けた画家はたくさんいたが、なかでも中川一政と児島善三郎の描く景色が好きだった。伊豆の手前の真鶴には中川一政美術館があり、企画展にもよるが、行くと真鶴の海や伊豆の山々を描いた絵が何枚も観られる。児島善三郎の絵は、学生のころ新宿の小田急にあった美術館で、生誕百年だったかの展示でまとめて観ることができた。裸婦、花、景色、と観ていくなかで出会ったのが「アルプスへの道」という絵だった。

手前の畑、奥にそびえる巨大な山、ぐりんぐりんに描かれた大きな雲、山の緑や空の青さのうえに、夕方なのか、うっすら赤茶色がのっている。馴染みのある日本の小さな風景がこれでもかと大きく描かれた「アルプスへの道」は、桁違いだった。

いつかわたしも、海や山が見える場所に滞在してこうした絵を描いてみたい。

展示「まどのむこう」に誘われ、何を描こうか悩んだとき思い出したのが、学生のころ焦がれた野獣派の描いた風景画だった。わたしがいま絵を描いている場所は、雑司ヶ谷1丁目にある4階建ての4階の、サンルームのような小さな部屋だ。周りは低い建物が多い住宅街で、街中にしては空が広い。どこかに滞在しながら絵を描く金も余裕もないが、どこかに滞在しなくとも、目の前に広がる屋根屋根はわたしの小さな山たちではないか。

わたしの窓の向こうには、両脇に大きな木、あいだに小さな屋根の山が連なり、その向こうに大きな空がある。

 

「まどのむこう」

「窓のむこう」は外なのか内なのか。

どちらでもありどちらでもない’むこう’を描く展示です。

■展示作家

入江マキ、嶽まいこ、谷川千佳、MISSISSIPPI、武藤良子、山田心平

■展示期間

2020年2月7日(金)〜16日(日)

2月12日(水)のみ休廊

平日 1:00〜8:00pm

土日祝 1:00〜7:00pm

最終日は5:00pm終了

※2月8日(土)6:00pmよりオープニングパーティーです。差し入れ歓迎。どなたさまもどうぞ。

■場所

ブックギャラリーポポタム

171-0021 東京都豊島区西池袋2-15-17
03-5952-0114(電話のみ)

 

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