断片日記

断片と告知

コロナの夏 7月17日から7月23日

7月17日金曜日

曇り、雨。レトルトのソースに冷凍のほうれん草を入れたパスタ。映画「ZOUZOU」を観ながら写真を撮る。

仕事の絵。夕方「WONDER MAN」を同じようにして観る。

夜、池袋西武の地下で惣菜を買い、東上線上板橋へ。電車に乗る前にホームからSに電話。期限が今日までだというポイント1万円分消費のため、上板橋のコジマで待ち合わせる。19時半ごろコジマに着くと、駐車場で電話をするSの姿、Sの兄と母はコジマの店内にいて棚を見ている。急いで欲しいものもなく、4人で悩んだすえ、トースターと、上板橋の家の防犯用の灯り、合わせて9千円分を選び、店員に在庫を確認してレジへ。レジであらためてポイント通知の葉書を見たSが、期限15日までだった、とこちらを振り向いて言う。ポイントきれてて使えず、ただ買い物をする。

重いトースターをSの兄が傘をさしながら持ってくれる。Sの実家へ。テーブルにはいま食べはじめたばかりの皿が並ぶ。缶ビールをグラスにあけ、あらためて4人で献杯。Sの母が成田から送ってくれた昔のアルバムを見る。Sは昔はモテてモテて、バレンタインデーには外で待っている女の子とかいてさ、とSの兄。バレンタインデーでチョコもらえなかったことなかった、とS。父に頼まれてネットでハゲ藥買ったんだけど、あれが血圧をあげたんじゃないかって、とS。漫画家を名乗る詐欺師が来て、父が泊めてお金まで渡し、Sがその人に描いてもらったサイン帳のサインを見る、など。11時過ぎ、東上線で帰る。3人は実家に泊まる。S家泊。

東京都の感染者数、293人。

 

7月18日土曜日

雨、曇り。ここ数日、ずっと涼しい。かき玉蕎麦。再び「WONDER MAN」観る。

仕事の絵。

夕方、Sが雑司ヶ谷に戻る。Sがファミチキを食べながらスマホを見て泣いている。なに見てんの?と聞くと、むちょすの日記、とS。ありがとね、って言ったとき、父の目がぎょろっとこっちに動いたんだよ、あぁ、聞こえてるなって。

Sと、見学会をしている雑司ヶ谷の旧三角寛邸へ。大きな龍が掘られた玄関の戸板。各部屋ごとに違う色、赤、緑、黄色の漆塗りの壁。弦巻通りに面した塀の内側の、たいてい子どものころみんな一度は落ちてます、という小さな池。欄間の横の小さな額のような飾りは、編集者を待たす部屋に仕掛けられた盗聴器の名残り。屏風に描かれた馬場のぼるの赤い猫。いくつか食器をいただいて帰る。三角寛邸は8月に取り壊し予定とのこと。

往来座へ。先に三角邸を見てきた店番nが、もらってきた食器をこちらに見せながら、ほらわたし最近一人暮らしはじめたから、と笑う。nの家人が亡くなってから、このことばをなんどか聞く。Sと池袋西武の無印へ。黒いネクタイ、シャツ、靴下など買う。缶ビール飲みながら散歩。母がさー前に家で骨折したとき、父が自転車に乗せて病院に行ったんだけど、入院に必要なものをメモしてて、母に下着って言われて、父はメモにパンテーって書いてて、おかしかったなぁ。東池袋造幣局跡地にできた公園へ。芝生に交差する直線の道を見て、北海道のイサムノグチの公園みたい、とS。西友で買い物。ひき肉トマトのショートパスタ、サラダ。プレステ2で「鬼武者2」の続き。久し振りにSも、S家泊。

東京都の感染者数、290人。

 

7日19日日曜日

曇り、晴れ。暑い。明け方、猫がシーツにうんこをする。それから寝られず。シーツを洗濯する。Sにうどん作る。宮迫がバイオハザードをやる動画。先に出たSから忘れ物したと電話。黒い靴とスマホの充電コード。

仕事の絵。

夕方早めに、Sの忘れ物を積んだチャリで上板橋へ。Sの実家に着くと、Sの母、兄、Eさんがベルクスで買った弁当を広げ、遅い昼飯をこれから食べようとしているところ。Sはイトーヨーカドーにぶどうを買いに行き、すぐ戻ってくる。Sの父の顔を見ると、少し開いていた口がぴったり閉じている。納棺師がすごかったのよ、顔とかマッサージしてて、見ていて飽きなかった、1時間があっという間、でも顔が前と違っちゃったのよね、と母とEさんが言いあう。中国のSF小説『三体』が面白いと兄。

夕方、車で舟渡斎場まで。明日の告別式の打ち合わせ。荒川土手沿いに斎場はあり、焼き場はすぐ隣りにある。長野の本家から贈られた大きなりんどうの花束が、遺影の左右を飾る。Sの父の彫刻作品も祭壇の横へ。Sの母が何枚も、お棺に横たわるSの父と、われわれとの写真を撮る。打ち合せが済み、お焼香をして、みんなで荒川土手にのぼる。広いねぇ、と言いあう。Sの母がまた、荒川を背にわれわれ4人を並べて写真を撮る。Sの兄とEさんを浮間舟渡の駅まで車で送る。駅前のローソンそばの植樹帯のなかにSの父の彫刻が建つ。車で近くまで寄り写真を撮る。上板橋に戻り、明日持っていくもの、ぶどう、かりんとう、写真、湿布など、マジックで大きく書いてドアに貼る。

3人で上板橋南口の鳥昇で夕飯。Sと母は、上板橋の実家に泊まる。わたしは自転車で雑司ヶ谷へ帰る。S家に寄り、猫の飯、水、便所など整え、今日は自分の家に帰る。M家泊。

東京都の感染者数、188人。 

 

7月20日月曜日

晴れ。暑い。ヨーグルト。池袋から埼京線で浮間舟渡まで、駅から歩いて20分ほどの斎場へ。数年ぶりに履いた革靴がしんどく、土手沿いで靴を脱いで休憩していると、買ったばかりの無印の黒い靴下のくるぶし部分に穴が開いているのを見つける。斎場に着き、洋式便所に腰掛け、長めの靴下を折り曲げたりしながら、どうにか穴を隠す。2階の個室で式の時間を待つS家とSの親戚、Sの父の友人たちと合流。銀座の歌舞伎座の地下、まんじゅうの柏屋の店頭に団治さんの木彫が置いてあるんだよ、2代目市川猿之助の、すごくいいよ。テーブルにひろげられたSの父親のアルバム見ながら、若いころはほんと男前ね、信州のアランドロンって言われてたって、ほんと?近くにいるとぜんぜんそんな気はしなかったけど。池田満寿夫とSの父がカラオケでデュエットをしている写真が何枚もある。長野のSの父の実家から式に参列する人はいず。なんかね、外から見ると、東京ってもうあれみたい、ゾンビランド、とS。

告別式と初七日を合わせた式。坊さんが経を読むときだけマスクを外す。最初の経を読み終わったかと思うと、ではここから初七日の法要に入ります、と坊さんが自分で段取りを進め、また違う経が読まれる。お棺があき、最後のお別れです、となったところでSが、便所に行ってくる、うんこもれる、と便所にたつ。お棺に、大好きだったぶどう、かりんとう、長野の写真、湿布、行きつけの飲み屋のカラオケ券、を入れ、花で周りを埋めているころ、S戻る。Tおばさんと上板橋の仲間のJUさんが、あたしたちがんばったよね、と言いながら手を取り合って花束を入れる。Tおばさんが父の額に手を当て、冷たい、と言う。冷たいんだって、とSに言うと、そりゃそうでしょ、と言いながらSも父の額に手をのせる。少しずれていたお棺の蓋を、Sと、父の彫刻の弟子のMさんが気にして触る。

すぐ横の焼き場に車で移動。外から見たときよりも広くてきれい。焼き場の部屋の手前に、ここからは撮影禁止の貼り紙。お棺をのせる台にも、焼き場の扉にも、合掌をデザイン化したマークがついている。台にのせられたお棺が焼き場のなかに入れられ、扉が閉まる。お別れでございます、と言いながら係りの人がこちらに向かって頭をさげる。扉の奥からごーっという低い音が響いてくる。夜中の病室に呼ばれたときから、お別れが何度も何度も訪れる。

せんべいをかじりながら、焼き終わりを待つ。個室の壁には液晶画面があり、もうすぐ焼き終わります、などと文字が流れる。その画面から、ピロリロリン、ピロリロリン、と焼き終わりの合図が鳴る。また便所に行っていたSを待ってから、みんなそろって焼き場に行く。ざぁっと銀色のトレイのうえにSの父の骨が流れる。係りの人が頭と喉仏の骨をよけ、ほかの大きな骨をそれぞれが箸で骨壺に入れていく。骨のなかからミシンのボビンのような金具がふたつ出てくる。頭の手術をした方はこういう金具が出てきます、と、係りの人。これ欲しい、もらっていい?とSが骨のなかから金具を取り出しハンカチに包む。骨壷に残りの骨をすべて納めてお終い。斎場に戻って飯を食べる。Sの兄が、ふつうの父親ではなかったですが、いい父親だったと思います、と喪主の挨拶。

お骨とともに車で上板橋のSの実家へ。実家に残っていたSの母と、香典返しや、これからのことなどの話し合い。お棺にこんなマークがあった、と合掌マークを図説していると、パンティにしか見えない、とSの兄。Sの母から、仕事で行ってきた金沢土産の、大門素麵、氷見うどん、レトルトのカレーなどもらう。

夕方早めにSと車で雑司ヶ谷に戻る。シャワーを浴びて疲れて転がる。カジサックとやべっちの動画、お笑いで一番になりたい、とやべっち。夕飯、大門素麵、ゴーヤのツナ和え、冷奴。素麵うまい。

S家泊。

東京都の感染者数、168人。

 

7月21日火曜日

曇り。Sはわかめうどん、わたしはかき玉うどん。今田耕司バイオハザードやる配信動画。Sは上板橋の実家へ。

仕事の絵。

夕方、S戻る。一緒に西友へ。夕飯は、氷見うどん、山芋、トマト。M家泊。

東京都の感染者数、237人。

 

7月22日水曜日

曇り、雨。納豆ご飯。往来座へ。Sが1日中店にいるのは久しぶり。Sの昼飯、三升屋で鶏テリマヨ弁当、ローソンでアイスコーヒーのメガサイズ。

S家に戻り映画「上州鴉」を観る。

仕事の絵。一発で描ける。

夜、往来座へ。一発で描けた絵を店番nに見せると、似てない、と。引っ越し整理中でまた本を売りに来てくれたHIちゃんと、Sと、升三へ。退職したHIちゃんに、お疲れさま乾杯。香典返しの不毛さ、人を育てることをやめたためにいままで出来ていた技術が出来なくなっていくこと、文化が死んでいく話、など。HIちゃんを副都心線雑司が谷駅まで送る。M家泊。

東京都の感染者数、238人。

 

7月23日木曜日

雨、曇り。ヨーグルト。S家へ。先日、Sの母からもらった金沢のレトルトカレーを温めて食べる。Sはターバンカレー、わたしはアルバ熟成カレー、どちらもうまい。映画「真昼の決闘」観る。

仕事の絵。

東京都の感染者数、366人。

上板橋の実家に行っていたS、夕方戻る。疲れた、買い物行けない、というのでひとりで西友へ行く。水餃子鍋、しめにラーメン。映画「浮雲」を観る。ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ、もう別れろよ、こんな男のどこがいいんだよ、腹立つわー、などと言い合いながら観る。池袋と目白のあいだの線路沿いの道を、高峰秀子森雅之が歩いている。いまの花の橋の辺りから、目白駅に向かって。昔の西武池袋線も映る。M家泊。