断片日記

断片と告知

猫の友だち

アトリエとして借りている風呂なしアパートのわたしの部屋へ、ときどき猫が訪ねてくる。近所のひとたちから、ちゃーちゃん、と呼ばれているこの猫は、首輪をし、この辺りを我がもの顔で歩いているが、どこのうちの飼い猫だかはわからない。
昼過ぎアパートへ行くと、足音でわかるのか、ひさしのうえや廊下の端にこちらを伺うちゃーちゃんの顔がある。アパートの上がり框に腰をかけ、名前を呼びながら手を伸ばすと、手のひらに体をすり寄せ甘えてくる。ひたい、ほほ、あご、しっぽのつけ根。ちゃーちゃんの好きな場所を撫でてやる。言葉の異なるわたしと猫と、手のひらでする会話みたいに。
気が向けば部屋のなかにもあがり込む。部屋の角、本棚の角に、体をすりつけながら歩くちゃーちゃんの毛が絡む。廊下の様子も気にかかる、でもせっかくだから会話もしないと。入り口と七畳半ひと間の半分くらいを行ったり来たり。会話に飽きると、ぷいっ、と出ていき廊下の端で毛をつくろう。
エサをねだられたこもやったこともなく、顔を合わせると気ままに言葉を交わす。こうした出来事を繰り返す関係を、ひとは友だちと言うのではないかしら。