断片日記

日々の断片と告知

日々

酸っぱい

食堂の端っこには食べ終わった食器をさげる場所、返却口がある。 返却口の手前には水の流れる溝がある。ここに食べ残しを落とす。溝の奥には水の溜まった大きな水槽がある。ここに食器を落とす。食器は洗われ翌日も使われる。 溝に落とされた食べ残しは水で…

「本のあるところ」入谷コピー文庫

堀内恭さんが発行している『入谷コピー文庫』にときどきよばれて文章を書いている。毎回、テーマもまちまち、書く人もまちまち、堀内さんが声をかけた人たちの文章がコピーされ綴じられる、たった20部だけ作られる小さな同人誌だ。ブログへの転載は問題あり…

夕方のチャーハン

大学の食堂で夕方4時間アルバイトをしている。絵だけでは食えず、金に困ってはじめた仕事だが、腹を減らして駆け込んでくる学生たちにカレーをよそい、ラーメンを茹でながら、使われた食器を洗いかたしていく作業は性に合っていたようで、気づけば4年経って…

引っ越しました

以前使っていたブログ・はてなダイアリーのサービスが終了し、はてなブログに引っ越ししました。 こちらで書き続けていきます。 以前のブログもこちらで読めます。 沖縄の市場の古本屋ウララでの展示は2月14日まで。明日、明後日の二日間です。

朝の音

たくさん飲んだ日の翌日、便所に行きたくて目が覚める。外はまだまだ暗く、夜と朝のはざ間くらい。尿意と布団から出る面倒くささをはかりにかけて、もう一度目をつぶったり、天井を見たり。そんなとき、ボン、と大きな音が隣りからする。隣りの豆腐屋が大豆…

夜のコンビニ

食堂のアルバイト帰り、近くの古本屋に顔を出す。いつもの顔が帳場の周りですでに一杯やっている。誰かもう一本飲む人いるー?と声をかけながら、夜のコンビニへ自分の酒を買いに出る。 また酒ですか。 腕に抱えた缶ビールを見て、レジの向こうの彼は必ずこ…

嘆き節

西口のコンビニへ移動した彼の替わりに、西口のコンビニから新しい店長がやってきた。入れ替わりなんですよ、と新しい店長を紹介された。紹介された気安さからか、レジの向こうの新しい顔と話すことに抵抗がない。 自分が来たとたんすぐモノが壊れるんですよ…

ゆるい約束

よく行くコンビニがふたつある。一軒は昼間、弁当や珈琲を買いに、もう一軒は夜、缶ビールや缶チューハイを買いに行く。店を分けているのは、昼間に行くコンビニにしかいれてもらえる珈琲がなく、夜行くコンビニのほうが酒が安いからだ。 昼間のコンビニでい…

観覧車

仙台駅前の高層ビルの最上階には展望台がある。青葉城から仙台市内を眺めたことは何度かあるが、街中から郊外を見る機会はいままでなかったし、あえて見ようと思うこともなかった。それが昨夜の飲み会でいい展望台があると聞いてきたSが、どこの展望台だった…

新緑

サンシャイン通りのユニクロに靴下を買いに行った帰り道。人ごみを避けグリーン大通りに出ようと、ひと昔前まで人生横丁があった裏道を抜けた。巣鴨プリズンの時代からあった人生横丁は、長屋のような二階建ての飲み屋が並ぶ味のある横丁だったが、いまは小…

いづれ、無かったことになる

マンションの一階の真ん中に、手製の富士山柄がアップリケされた暖簾がさがる。暖簾をはらうと、縫い合わされた布の厚みで手が重い。階段数段おりて半地下の入り口へ。手前左手に傘入れ、自動ドアの引き戸、入ると左手に下足箱、フロントがあり、右手に小さ…

鏡には映らない

新宿から京王線で幡ヶ谷まで。ゆるいBGMがかかる商店街を北へ抜け、この辺だろうと見当をつけたところを左に曲がる。住宅街のなかに目当ての銭湯「観音湯」を見つけるがシャッターが降りている。入り口横に店主入院のためしばらく休業の貼り紙。仕方なく、今…

うらわ稲荷湯

浦和駅西口に降り、日が落ちて灯る飲み屋の明かりを追いかけて小さな路地をぬって歩く。昼間の町の賑わいもいいが、夜の賑わいのなかを歩くのは格別に楽しい。道の向こうの歩道を歩く女に、こちらの歩道の女がこっちこっちと手を振っている。どちらも着飾っ…

東京の空

西池袋でカレーを食べた帰り道、雲ひとつない青い空を見上げながら、東京のお正月っぽい、と明日長野に帰る友人が言う。 年末年始、友人たちがSNSにあげる、それぞれの故郷の写真を見るのを楽しみにしているが、雑煮の違いや家族の写真に気をとられ、どの町…

本の背中

ときどき知人の古本屋の手伝いをしている。主な手伝いは買取で、古本屋とともに客の家に車で出向き、客が売りたいという本の版型を揃え、縛りやすい高さに積みなおし、縛られた本の山を車に運び込んでいく。単純な力作業だが本の量が多いときは重宝がられて…

雑司ヶ谷番外地

雑司ヶ谷で生まれ育ったわたしの、知らない雑司ヶ谷を知る人たちがいる。鬼子母神通りで開催される古本フリマみちくさ市で知り合った、石丸元章さんとピスケンさんだ。石丸さんは自身の薬物使用体験を基にした私小説『SPEEDスピード』や、ハンター・S・トン…

遺影がない

日雇い労働者の町で古本を売らないかと誘われ、八月末、横浜寿町に乗り込んだ。寿町の真ん中に建つ寿町労働総合福祉会館の建て替え工事のため、この夏だけ空いた巨大な更地に水族館劇場が芝居小屋を建てている。水族館劇場の本公演は九月一日からだが、八月…

顔も知らない

居間兼台所の座卓に座り、テレビを見たり、昼飯を食べたり。座卓の正面の窓からは、お向かいの白い戸建が二軒と、二軒の間にさらに向こうの二階建てのアパートが見える。座って窓を見上げているので、どちらの建物も二階部分しかこちらからは見えない。 ある…

タテバ

数年前、古本屋を営む知人の車に乗せてもらい、タテバと呼ばれる場所に連れて行ってもらったことがある。車を西に走らせ数十分、豊島区の端っこなのか、それとも練馬か板橋辺りなのか、住宅地のなかに唐突にあった。道の向かいは学校の校庭で、タテバの横は…

星とくらす

あれは山中湖の近くにあった、父の勤めていた会社の保養所だったと思う。子どものころ、家族旅行で何度か訪れたはずだが、覚えていることはそう多くない。湖畔沿いの売店の大きな水槽につかって売っていた青りんごの甘酸っぱい固さと、夜、保養所の窓から見…

わたしのアトリエ 文藝誌『園』

学生時代から三十代半ばまで、自分の部屋で絵を描いていた。中学生のころ建替えた家の、2階の端にあるわたしの部屋だ。窓はふたつ。ひとつはいつも閉め切りで、もうひとつは開けたり閉めたり。窓の前には目隠しがわりの木が一本。ときどき鳩が巣をつくっては…

乾杯

久しぶりに仙台へ行った。最後に訪れたのは2015年の6月だから、2年ぶりの再訪になる。2009年から15年のあいだ、サンモール一番町商店街で行なわれていたBook! Book! Sendaiでの古本市に参加するため、毎年6月はわめぞの有志で仙台を訪れていた。昼は古本市、…

小林秀雄だってそうなんだから

石神井書林の内堀さんがよく行く映画館にはシニア割引がある。60歳を越えると1800円の映画代が1000円になる。1800円が1300円くらいの割引ならわざわざ言わないんだけど1000円じゃなぁ、と内堀さんは窓口で60歳ですと申し出る。それが一度も身分証明書を見せ…

前略、ぬいぐるみの中身様。

昨年の12月、飲み友達が死んだ。死んだからって、いい人だったよねと、あれやこれやを片付けお仕舞いにしたくなかった。本が好きで、酒が好きで、不良で、格好付けで、夢見がちな男だから好きになり、本が好きで、酒が好きで、不良で、格好付けで、夢見がち…

ピエーポポ!ライブ2017

今年のはじめ、チラシの肖像画を描いた縁で、東洋大学で行われた野溝七生子の講演会へ行った。女性が学校に通うことはおろか、本を読むことさえ生意気だと言われていた時代に、東洋大学に進んだ野溝七生子の一生を、代表作『梔子』の主人公と重ねた幼少時代…

桶川の焚き火

松本素生さんが作った「東京」という歌をはじめて聞いたのは、昨年9月に行なわれたポポロックフェスのときだ。イッツオーライ。繰り返されることばが、聴き終わったあといつまでも口先に残り続けるのが気持ちよかった。みちくさ市の打ち上げで、「東京」が好…

わたしの、まえのひを再訪する

「彼は、人生が一回しかなくて、すべてが過ぎ去っていくことが許せないんですよ。私も許せない。つまり、いつか全員が消えてしまって、この世のすべてが終わってしまうということが本当に理解できない。」 これは、『まえのひを再訪する』に抜粋されていた、…

スカートの柄 

朝、新聞を眺めていると、「父の教え」という連載が目に入った。毎週、有名人の父子が取り上げられているが、今朝は檀一雄とその娘、檀ふみさんだった。檀一雄が子どもたちに言い続けた「奮闘しなさい」という言葉と、晩年のエッセイ『娘たちへの手紙』から…

マヨヒガ

小田急線で小田原の少し手前まで。同じ電車で来たSと、すでに改札の外で待っていた隊員たちと、さらに遅れてきたUと、今日は神奈川の山と川沿いを歩く。カレンダーの裏紙に描かれた地図を頼りに川を越えて山へと向かう。昼飯の食材が入った20キロ弱の背負…

役立たず

口の奥、喉だかあごだかが痛みだし、話すことも噛むこともままならなくなり医者に行った。内科医にわからんと言われ、紹介された歯科医に行くと、あっさり潰瘍だと知れた。上の親知らずが大きくなりすぎて下の歯ぐきを傷つけてます。それが潰瘍になってます…