断片日記

断片と告知

コロナの夏 7月31日から8月6日

7月31日金曜日

曇り、晴れ。納豆ご飯。ヒルナンデスを見ているとマチャミの顔のうえに、東京都の感染者数400人を越える見込み、のニュース速報が流れる。往来座へ。家でカップラーメンとご飯食べちゃった、でも念のため、とSが言うので、ローソンで玉子サンドとアイスコーヒーのメガサイズ。ポポ番へ。時短営業。夕方、往来座にいるSから、もう疲れちゃった、先帰る、と電話。6時過ぎkaさん来てポポ番交替。大倉で買い物。金のソーメン食べたい、とSが言うので夕飯は、ソーメン、ゴーヤのツナ和え、トマト、母からもらったコンビーフ。金のソーメンは、束が金の紙でとめられている桐箱入りの「揖保の糸」、北部の古書組合からもらったもの。うまい。Sがカジサックの話ばかりしてうるさい。「鬼武者2」の別バージョンをやりはじめる。M家泊。

東京都の感染者数、463人。今日1日の国内感染者数、1580人。どちらも最多。3日連続で全国の感染者数1000人超える。

 

8月1日土曜日

晴れ。梅雨明け。暑い。納豆ご飯。ヒロコちゃん2ヶ月もICUに入ってて、まだ出たばかりなのにもうおかゆとかおじやとか食べられるんだって、メールも出来るし、と母。往来座へ。入り口のガラス戸を店番nが拭いている。水でも落ちるという赤い塗料が落ちない、とのこと。Sの昼飯、ローソンでたらこパスタとアイスコーヒーのメガサイズ、ついでにnの分のアイスコーヒーMサイズも買う。

S家で洗濯。洗濯機にバスタオルやなんかを放り込んでいると、横の壁に紙が貼られているのに気づく。2020/7/31の日付とSの体重。紙のしたには体重計が置かれている。わたしも計って日付と体重を書く。

 Sから電話。いまさー、腫れがひかないから歯医者行って薬だけもらってきたんだけど、痛くないんだよ、痛くはないから舌先で触ってみたのよ、そしたらさー、歯と歯茎のあいだにギザギザしたものがあるの、父の頭から出てきたボビンなのよ、ボビンが歯と歯茎のあいだにあるの。

夕方、池袋パルコの世界堂へ画材を買いに行く。駅周辺のマスクの着用率が、目に入る限り100%になった。往来座へ。miくん来てSに、実家にあったゴーヤーマンの貯金箱、を渡している。Sと車で東池袋に買取り。段ボール4箱。往来座に戻って、Sは車から段ボールをおろし店内へ入れていく、わたしは大倉へ買い物に行く。ローソン100で本搾りのグレープフルーツ味買い、飲みながら、車のなかでSの仕事が終わるのを待つ。土曜だし焼肉とか、とSが言うので夕飯は焼肉、トマト、ブロッコリー、冷奴。nが先に読んでいいよと貸してくれた漫画読む。夜中、腹が痛くて2度便所にこもる。S家泊。

東京都の感染者数、472人。全国で1536人。

 

8月2日日曜日

晴れ。ひき肉と玉ねぎと豆のジャワカレー。ユーチューブ見ながら、又吉さんの動画はおしゃれだなー、テンション低いところからはじまってる、とS。Sは往来座へ。わたしは疲れがたまって動けず、一日寝て過ごす。夜、往来座へ。Sとnと本搾り飲む。大倉で買い物。夕飯は、明太子パスタ、トマト、ゴーヤのツナ和え。これだけ流行ればそろそろ自分の番なのでは、と体温を計る。35度台。S家泊。

東京都の感染者数、292人。全国の感染者数、1332人。5日連続で1000人越える。沖縄が心配。

 

8月3日月曜日

晴れ。岐阜から届いた鮎ラーメン作る。これうまい、これ高いんじゃない?としきりにS。麺のあとに飯を入れ雑炊にして汁も残さず食べる。Sと雑司ヶ谷某所へ。家主のTAさんに古い家のなかを見せてもらう。外から見ていたよりだいぶ広い。借り手を探す話しなど。往来座に寄り、ツルハ、大倉で買い物。夕飯は手巻き寿司。映画「バーフバリ 伝説誕生」続けて「バーフバリ 王の凱旋」観る。S家泊。

東京都の感染者数、258人。

 

8月4日火曜日

晴れ。暑い。資料の写真探し。夕方、Sと車で上板橋のSの実家へ。Sの父の祭壇の枯れた花の片付け、掃除など。ベルクスで買い物、そのままいつもの道を走らず、迷ったら左手に曲がるを繰り返し知らない道を帰る。夕飯はクリームパスタ、オニオンスライス、トマト。映画「少林サッカー」観る。S家泊。

東京都の感染者数、309人。

 

8月5日水曜日

晴れ。暑い。肉玉うどん。婚姻届もらいに行こう、とS。Sは往来座へ。ジャン・ギャバンの「Le mura di Malapaga」を写真を撮りながら観る。夕方、奥歯のかぶせが取れたので予約していた立川歯科へ。待合室のソファは透明ビニールで区切られ、床やテーブルに置かれていたたくさんのおもちゃは撤去されている。熱、咳などの症状はないか、渡航歴はないか、同居人にもないか、のアンケートを書く。検温。36.5度。はじめにイソジンでうがいしてください、と言われる。治療終わり、指にクリップ状のものをはめられ血中酸素をはかられる。98。90以下だと肺が機能しておらず、肺炎の恐れあり、コロナの疑いあり、とのこと。Kへ、帳簿づけの手伝い。昨日、1時間で30件イソジンの問い合わせがあったよ、もうまいっちゃうよー、とK。往来座へ。さっきお客さんに手に消毒液のスプレーかけられた、と店番のTa 。婚姻届もらいに行こう、とSがまた言うので豊島区役所へ行く、が5時過ぎていて入れず。西友で買い物。夕飯は、金のソーメン、トマト、グラタン。「鬼武者2」の続き。S家泊。

東京都の感染者数、263人。

 

8月6日木曜日

晴れ。暑い。かき玉うどん。Sは往来座へ、一日店番の日。仕事の資料探し。夕方、往来座でmiと待ち合わせ。神戸土産の手ぬぐいとスケッチブックもらう。家の下でuと合流、江戸川橋に向かって3人で散歩。古本屋のアルスクモノイ、神楽坂の青花でスキタイの古物見るなど。19時過ぎ予約していた台湾料理屋フジコミュニケーションへ。酒は冷蔵庫から勝手に取り出して飲む仕組み。レモングラスっぽいスパイスがかかった餃子、うまい。歩いてまた雑司ヶ谷に帰る。M家泊。

東京都の感染者数、360人。

コロナの夏 7月24日から7月30日

7月24日金曜日

曇り、雨。納豆ご飯。往来座へ。Sの昼飯、ローソンでツナと玉子のサンドイッチ、鮭のおにぎり、アイスコーヒーのメガサイズ。ポポ番へ。ポポタムは週末のみ13時から16時までの時短営業。ポポ番終わって、往来座へ。Sと車で板橋北郵便局へ。終わって上板橋のSの実家へ、Sの父の書類のあれこれ。戻って大倉で買い物。石神井書林の目録届く。冬に続き夏の題字「夏のもくろく」も描かせてもらった。夕飯は、ソーメン、ピーマンの肉詰め、トマト。プレステ2で「鬼武者2」の続き。M家泊。

東京都の感染者数、260人。

 

7月25日土曜日

雨、ときどき大雨。納豆ご飯。往来座へ。Sの昼飯、ローソンでミックスサンドイッチ、ツナおにぎり。

仕事の絵。

夜、東上線上板橋のSの実家へ。Sの高校時代からの友人で税理士をしているYAくんと、Sの兄とSが焼き鳥をつまみつつ飲んでいるのに混ざる。YAくんに、Sの実家の相続税などの相談。いつも甘い酒を1本くらいしか飲まないSの兄が、日本酒は好きなんだよ、と言いながら、YAくんが持ってきた田酒を水のように飲んでいる。YAくんも田酒と缶ビールを水のように飲んでいる。Sの兄が岩手で大学生をしていたとき、SとYAくんが車で岩手に遊びに来た話をし、あの悪ガキがこんなに立派になって、うれしいなぁ、とYAくんと20数年ぶりに会った兄が繰り返す。Sが親知らずが痛いと言い出す。Sの兄、途中で酔いつぶれて布団に倒れる。兄を布団に残して、YAくんとSと実家を出る。ラーメン食べたいとわたしが言い張り、3人で上板橋駅前の大番ラーメンへ。ふたりは酒を飲み、わたしは大番ラーメンと餃子を食べる。東上線で池袋まで、Sに引きずられるようにして家に帰る。つられて飲んだ酒とラーメンがたたって家の便所で吐く。便器にまかれた鮮やかな赤は、つまみで食べたプチトマトだ。M家泊。

東京都の感染者数、295人。

 

7月26日日曜日

曇り、雨。ヨーグルト。往来座へ。親知らずが痛い、歯が合わせられない、日曜日でどこも歯医者がやってない、さっき会長に電話して、今日やってて評判いいとこ教えてもらった、とS。食べられないからコーヒーとウイダーインゼリーみたいの買ってきて、とSが言うのでローソンへ。一度も買ったことのないウイダーインゼリーがどこの棚にあるかわからず、ローソンのなかをぐるぐるし、ヘパリーゼやウコンの並ぶ冷蔵棚の下にあるのを見つける。バナナ2本分と書かれたゼリーとアイスコーヒーのメガサイズ。

クリームパスタ食べて、仕事の絵。試しで描いた顔をどうやっても越えられず気持ちが腐る。切って貼ることにする。

歯医者に行ってきたSから電話。親知らず抜かなかった、疲れがたまって歯茎が腫れたみたい、抜こうと思えば抜けるけど大学病院で1時間とかかかるんだって。帰ってきて布団に転がりながら、おれっていままでは疲れがたまると扁桃腺炎か痔になってたけどこんどは歯茎、とS。

夜、西友へ。カボチャをチンしたの、母からもらったコンビーフ、ソーメン。歯茎が腫れて奥歯が合わせられないSは、ゆっくりソーメンをすすっている。プレステ2で「鬼武者2」の続き。Sが三浦哲郎の短編集から「ひがん・じゃらく」を朗読。S家泊。

東京都の感染者数、239人。

 

7月27日月曜日

曇り、雨。Sはわかめと玉子のうどん、わたしはかき玉うどん。ハンバーグ師匠と堤下とカジサックのコラボ動画。炊飯器にシール。雨続きでベランダの植木鉢に黄色いきのこが2本生える。

腸捻転で入院しているSの恩師T先生に会いに、車で日大病院板橋へ。面会は基本禁止、エレベーターホールのベンチで少し話すくらいなら、と電話での問い合わせで言われ、T先生とベンチで話す。いつものように3〜5日の処置で済むと思っていたが、今回はこのまま手術になるとのこと。8月4日に手術、先生の誕生日。

車でそのまま板橋区役所へ。Sの父の書類のあれこれ。戸籍とか後期高齢者とか障害手帳の返却とか、言われるままにカウンターをぐるぐる回る。

車で雑司ヶ谷に戻る。大倉で買い物。鈴木常吉さん亡くなったって、とツイッターを見ていたSが言う。セツモードセミナーに通っていたころ、HAに誘われ「つれれこ社中」のライブを何度か見に行った。鈴木さんが歌う鉛の兵隊、上野さんのニチニチソウの唄、が好きだった。

歯茎の腫れがいまいちひかないSに合わせて、夕飯はクリームベーコンリゾット。ブロッコリー玉ねぎかぼちゃなど、柔らかくした野菜も入れる。プレステ2で「鬼武者2」の続き。

Sが「ののしり」朗読。S家泊。

東京都の感染者数、131人。

 

7月28日火曜日

曇り。Sはわかめうどん、わたしはかき玉うどん。 Sは、今日は一日休みの日、と決め、布団に転がりユーチューブを見たり、起きてブログを書いたりしている。いまザキ先輩と映画観た日、いまむちょすが七軒屋公園で蚊に刺されたとこ。アベノマスクってまた届くの?とS。

仕事の絵。

夜、マルエツへ。夕飯はツナリゾット。痛みはないが腫れがいまいちひかない、とS。「鬼武者2」を最後まで。ラスボス戦があっけない。最後までクリアすると、探偵物語の工藤ちゃんでゲームができる特典がある。日本の古本屋のメルマガで、石神井書林の内堀さんが書いた「好きなことをやって生きていければ」を読む。

日本の古本屋 / 好きなことをやって生きていければ

Sが短編集から「うそ」を朗読。S家泊。

東京都の感染者数、266人。

 

7月29日水曜日

曇り。アボカド納豆ご飯。Sは、Sの父のあれこれをやりに、板橋区役所や板橋年金なんとかへ。

仕事の絵。

 夜、Sが板橋から戻ってくる。疲れた顔を見て、ひとりで西友へ行く。夕飯は、煮込みハンバーグ、冷奴。「鬼武者2」の別バージョンの続き。頭が痛い。M家泊。

東京都の感染者数、250人。

 

7月30日木曜日

曇り。納豆ご飯。往来座へ。Sがさっぱりしたものが食べたい、冷やし中華はいやだ、というので冷やしの蕎麦とアイスコーヒーのメガサイズ。

仕事の絵。

夕方、雑司ヶ谷から歩いて早稲田へ。ツイッターで今月末での閉店を知った銭湯「松の湯」へ行く。グランド坂を上がって左手、もしくは、高田馬場から早稲田大学へ行く途中の道がぐいっと右手に曲がるところ、の早稲田通り沿いに面して建つ。横から奥をのぞくと古い木造のいかにも銭湯の建物が見えるが、手前の道に面した部分は新建材で覆われ、左手にコインランドリー、右手に銭湯の入り口がある。数段のぼると目の前の壁に鶴の模様の木製の懸魚、階段のぼりきると両脇に下足箱、自動ドアの入り口が開くと、目の前にソファやテレビの並ぶ小さなロビー。ロビー右手にフロント、フロント挟んで右手が男湯、左手が女湯の入り口。

のれんをくぐって脱衣所、男湯との境の壁に鏡と洗面台、左手から壁沿いに「く」の字型にロッカーが並ぶシンプルなつくり。老婆がふたり、体を拭きながら小さな花のように話している。旦那のほうが早く死んじゃって、わたしのほうが先に死ぬかと思ってたんだけど、違うの病気じゃないの、ただ死んじゃったの。

洗い場入ると、右手に立ちシャワーがふたつ、左手には別料金のサウナ、サウナの目の前に水風呂、水風呂の壁を背にして打たせ湯、打たせ湯から「く」の字型に正面の壁に向かって、座ジェット、全身ジェット、ぴりぴりと痺れる湯船、が続く。正面の壁には大きなモザイク画、大きな日輪と鶴が4羽、そのうちの1羽は湯船近くまで降り大きく羽を広げている。打たせ湯の湯は打たれた気がしないくらい静かに落ちる。全身ジェットは北斗百裂拳をあびたくらいあまった肉がよじれて泳ぐ。湯気抜きのある高い天井まで真っ白なペンキで塗られた壁、水色の桟が空間を締める。

フロントで銭湯遍路に判子をもらう。前に来たときにももらったが、いまは判子のデザインが新しくなった。フロントに座る女将さんに、外の壁にさげられた星型やプーさんの電飾について訊ねる。いつもはクリスマスのときだけさげるんだけど、今年はもうおしまいでしょ、だから去年のクリスマスからずっとさげてるの。

「閉店のお知らせ 昭和25年から70年間、早稲田の街で松の湯を営業してきましたが、施設の老朽化、経営陣の高齢化のため、7月31日金曜日(7月末日迄)をもちまして閉店させて頂きます。お客様には、長い間のご利用ありがとうございました。店主」と書かれた紙が電飾のしたに貼られている。

フロントで買った缶ビールを飲みながら雑司ヶ谷に帰る。ピアゴで買い物。夕飯はシチュー。M家泊。

東京都の感染者数、367人。

幽霊 入谷コピー文庫

堀内恭さんが編集発行する入谷コピー文庫『今でも忘れられないシーンのあるがちゃまる映画たち』が届く。堀内さんはいつもどなたからか感想が届くと、そのコピーを冊子に挟んで送ってくれる。届いた『がちゃまる映画たち』には、前号、大滝秀治人間劇場シリーズ『女と男』にわたしが寄せた「幽霊」への、Fさんからの感想コピーが挟まれていた。男の人はあまり自分の話を書きませんね。そうかもしれませんね。

 

 

「幽霊」

男の家は、西武池袋線ひばりヶ丘と東久留米のあいだくらいで、どちらの駅からも同じくらい遠い。歩くと30分くらい、坂道が多いから自転車でも10分15分はかかる。男の家に行くときは、東久留米駅前の、小さなロータリーに面したチェーンの本屋で待ち合わせる。ふたりとも職場が本屋で、休日までよその本屋にいることもないが、この町の駅前にはほかに行くところもない。

たいてい女のほうが先に着き、本屋の入り口を気にかけつつ、立ち読みしながらゆっくり一周したころ、男は慌てもせずにやってくる。入り口から一瞥すれば、女がいるかいないかくらい、すぐわかるような大きさの店だ。それなのに、あっちの棚をゆらーと、こっちの棚をゆらーと、雑誌を手に立ち読みをはじめ、女の顔を見ようともしない。痺れを切らしてそばに行くと、遅れた詫びなど一言もなく、手にした雑誌や本を女に向けて、なにか一言二言笑ってみせる。

本屋の横のコンビニで缶ビールを買い、男が乗ってきた自転車の後ろに股がり、飲みながら、男が漕ぐ自転車に揺られる。駅前からちょっと行けば、小さな川と小さな林と畑も残る町並みは、女が住むビルの多い街と違い、空が広くて気持ちがいい。冷えた缶ビールがよく似合う、なんてすてきな東久留米、女を見ないふりをする男をのぞけば。

いつか女は本屋を辞めた。本屋のある駅の反対側の街にアトリエを借り、絵を描いて暮らしをたてはじめたころ、男は変わらず本屋で働いていた。仕事終わったよ。男からの電話はいつでも急だ。あわてて絵の道具を片付け、着替えて飛び出しても、待ち合わせの駅前のコンビニまで20分はかかる。今度は女が男を待たせる番だ。

待たせるのは平気なくせに、待たされた男はいつもどこか機嫌が悪い。待ちたくないのなら早めに電話をすればいいだけなのに、なんど繰り返しても、男はそうすることをしない。待ち合わせたコンビニで缶ビールを買い、いつものラーメン屋のカウンターを目指し飲みながら歩く。今日一日どんな絵を描いたかを話し、男にどんなことがあったかを聞く。女は男の顔色をうかがいながら、男はまっすぐ前を見ながら。

週末には男を待ち、平日には男を待たせたが、近寄るのはいつでも女のほうだった。女と男が付き合いはじめたころは、そんな男の気のひき方も、むしろ内気に、かわいらしくさえ見えていたが、どれだけの週末と平日を繰り返しても、男は女を見ようとしない。待ち合わせのたび、見えないふりをされ続けた、女の体がすけていく。

週末の東久留米で、畑の横の無人販売所で買った野菜を、男は家で料理する。ブロッコリーを大き目の房に切り分け、きつめに塩を入れた熱湯で茹でる。鍋のなかで転がるブッロコリーに鼻を寄せ、匂いで茹で加減をみる。匂いが変わった瞬間を見逃さず、すばやくザルにあけお湯を切る。男が茹でたブロッコリーは、固すぎず、柔らかすぎず、ほどよく塩が効いて見事だ。冷えたビールを飲みながら、マヨネーズをなでつけたブロッコリーにかぶりつく。ブロッコリーを茹でるときのようにまっすぐに、どうして女を見てくれないのか。

いつものラーメン屋のカウンターだった。君がぼくのことを本当に好きかどうかわからないんだ。追われる男で居続けるために、散々女を見ないふりして、それでもまだ、どれだけ薄いことばで試してくるのか。カウンターの向こうに置かれたテレビをまっすぐ見つめ、まるきりすけた女が黙ってラーメンをすする。それきり、女は男を見るのをやめた。

思い出すとよみがえる、あのころの女があまりに哀れだ。女は一日の終わりにすっかりぬるくなった風呂に体を沈める。湯のなかで、右手の指で股ぐらの陰毛をつかんで抜いて、湯の外で、抜けた陰毛を左手に集める。毎日、毎日、成仏するまで、あのころ幽霊にされた女に、いまのわたしが陰毛の花束をそえる。

コロナの夏 7月17日から7月23日

7月17日金曜日

曇り、雨。レトルトのソースに冷凍のほうれん草を入れたパスタ。映画「ZOUZOU」を観ながら写真を撮る。

仕事の絵。夕方「WONDER MAN」を同じようにして観る。

夜、池袋西武の地下で惣菜を買い、東上線上板橋へ。電車に乗る前にホームからSに電話。期限が今日までだというポイント1万円分消費のため、上板橋のコジマで待ち合わせる。19時半ごろコジマに着くと、駐車場で電話をするSの姿、Sの兄と母はコジマの店内にいて棚を見ている。急いで欲しいものもなく、4人で悩んだすえ、トースターと、上板橋の家の防犯用の灯り、合わせて9千円分を選び、店員に在庫を確認してレジへ。レジであらためてポイント通知の葉書を見たSが、期限15日までだった、とこちらを振り向いて言う。ポイントきれてて使えず、ただ買い物をする。

重いトースターをSの兄が傘をさしながら持ってくれる。Sの実家へ。テーブルにはいま食べはじめたばかりの皿が並ぶ。缶ビールをグラスにあけ、あらためて4人で献杯。Sの母が成田から送ってくれた昔のアルバムを見る。Sは昔はモテてモテて、バレンタインデーには外で待っている女の子とかいてさ、とSの兄。バレンタインデーでチョコもらえなかったことなかった、とS。父に頼まれてネットでハゲ藥買ったんだけど、あれが血圧をあげたんじゃないかって、とS。漫画家を名乗る詐欺師が来て、父が泊めてお金まで渡し、Sがその人に描いてもらったサイン帳のサインを見る、など。11時過ぎ、東上線で帰る。3人は実家に泊まる。S家泊。

東京都の感染者数、293人。

 

7月18日土曜日

雨、曇り。ここ数日、ずっと涼しい。かき玉蕎麦。再び「WONDER MAN」観る。

仕事の絵。

夕方、Sが雑司ヶ谷に戻る。Sがファミチキを食べながらスマホを見て泣いている。なに見てんの?と聞くと、むちょすの日記、とS。ありがとね、って言ったとき、父の目がぎょろっとこっちに動いたんだよ、あぁ、聞こえてるなって。

Sと、見学会をしている雑司ヶ谷の旧三角寛邸へ。大きな龍が掘られた玄関の戸板。各部屋ごとに違う色、赤、緑、黄色の漆塗りの壁。弦巻通りに面した塀の内側の、たいてい子どものころみんな一度は落ちてます、という小さな池。欄間の横の小さな額のような飾りは、編集者を待たす部屋に仕掛けられた盗聴器の名残り。屏風に描かれた馬場のぼるの赤い猫。いくつか食器をいただいて帰る。三角寛邸は8月に取り壊し予定とのこと。

往来座へ。先に三角邸を見てきた店番nが、もらってきた食器をこちらに見せながら、ほらわたし最近一人暮らしはじめたから、と笑う。nの家人が亡くなってから、このことばをなんどか聞く。Sと池袋西武の無印へ。黒いネクタイ、シャツ、靴下など買う。缶ビール飲みながら散歩。母がさー前に家で骨折したとき、父が自転車に乗せて病院に行ったんだけど、入院に必要なものをメモしてて、母に下着って言われて、父はメモにパンテーって書いてて、おかしかったなぁ。東池袋造幣局跡地にできた公園へ。芝生に交差する直線の道を見て、北海道のイサムノグチの公園みたい、とS。西友で買い物。ひき肉トマトのショートパスタ、サラダ。プレステ2で「鬼武者2」の続き。久し振りにSも、S家泊。

東京都の感染者数、290人。

 

7日19日日曜日

曇り、晴れ。暑い。明け方、猫がシーツにうんこをする。それから寝られず。シーツを洗濯する。Sにうどん作る。宮迫がバイオハザードをやる動画。先に出たSから忘れ物したと電話。黒い靴とスマホの充電コード。

仕事の絵。

夕方早めに、Sの忘れ物を積んだチャリで上板橋へ。Sの実家に着くと、Sの母、兄、Eさんがベルクスで買った弁当を広げ、遅い昼飯をこれから食べようとしているところ。Sはイトーヨーカドーにぶどうを買いに行き、すぐ戻ってくる。Sの父の顔を見ると、少し開いていた口がぴったり閉じている。納棺師がすごかったのよ、顔とかマッサージしてて、見ていて飽きなかった、1時間があっという間、でも顔が前と違っちゃったのよね、と母とEさんが言いあう。中国のSF小説『三体』が面白いと兄。

夕方、車で舟渡斎場まで。明日の告別式の打ち合わせ。荒川土手沿いに斎場はあり、焼き場はすぐ隣りにある。長野の本家から贈られた大きなりんどうの花束が、遺影の左右を飾る。Sの父の彫刻作品も祭壇の横へ。Sの母が何枚も、お棺に横たわるSの父と、われわれとの写真を撮る。打ち合せが済み、お焼香をして、みんなで荒川土手にのぼる。広いねぇ、と言いあう。Sの母がまた、荒川を背にわれわれ4人を並べて写真を撮る。Sの兄とEさんを浮間舟渡の駅まで車で送る。駅前のローソンそばの植樹帯のなかにSの父の彫刻が建つ。車で近くまで寄り写真を撮る。上板橋に戻り、明日持っていくもの、ぶどう、かりんとう、写真、湿布など、マジックで大きく書いてドアに貼る。

3人で上板橋南口の鳥昇で夕飯。Sと母は、上板橋の実家に泊まる。わたしは自転車で雑司ヶ谷へ帰る。S家に寄り、猫の飯、水、便所など整え、今日は自分の家に帰る。M家泊。

東京都の感染者数、188人。 

 

7月20日月曜日

晴れ。暑い。ヨーグルト。池袋から埼京線で浮間舟渡まで、駅から歩いて20分ほどの斎場へ。数年ぶりに履いた革靴がしんどく、土手沿いで靴を脱いで休憩していると、買ったばかりの無印の黒い靴下のくるぶし部分に穴が開いているのを見つける。斎場に着き、洋式便所に腰掛け、長めの靴下を折り曲げたりしながら、どうにか穴を隠す。2階の個室で式の時間を待つS家とSの親戚、Sの父の友人たちと合流。銀座の歌舞伎座の地下、まんじゅうの柏屋の店頭に団治さんの木彫が置いてあるんだよ、2代目市川猿之助の、すごくいいよ。テーブルにひろげられたSの父親のアルバム見ながら、若いころはほんと男前ね、信州のアランドロンって言われてたって、ほんと?近くにいるとぜんぜんそんな気はしなかったけど。池田満寿夫とSの父がカラオケでデュエットをしている写真が何枚もある。長野のSの父の実家から式に参列する人はいず。なんかね、外から見ると、東京ってもうあれみたい、ゾンビランド、とS。

告別式と初七日を合わせた式。坊さんが経を読むときだけマスクを外す。最初の経を読み終わったかと思うと、ではここから初七日の法要に入ります、と坊さんが自分で段取りを進め、また違う経が読まれる。お棺があき、最後のお別れです、となったところでSが、便所に行ってくる、うんこもれる、と便所にたつ。お棺に、大好きだったぶどう、かりんとう、長野の写真、湿布、行きつけの飲み屋のカラオケ券、を入れ、花で周りを埋めているころ、S戻る。Tおばさんと上板橋の仲間のJUさんが、あたしたちがんばったよね、と言いながら手を取り合って花束を入れる。Tおばさんが父の額に手を当て、冷たい、と言う。冷たいんだって、とSに言うと、そりゃそうでしょ、と言いながらSも父の額に手をのせる。少しずれていたお棺の蓋を、Sと、父の彫刻の弟子のMさんが気にして触る。

すぐ横の焼き場に車で移動。外から見たときよりも広くてきれい。焼き場の部屋の手前に、ここからは撮影禁止の貼り紙。お棺をのせる台にも、焼き場の扉にも、合掌をデザイン化したマークがついている。台にのせられたお棺が焼き場のなかに入れられ、扉が閉まる。お別れでございます、と言いながら係りの人がこちらに向かって頭をさげる。扉の奥からごーっという低い音が響いてくる。夜中の病室に呼ばれたときから、お別れが何度も何度も訪れる。

せんべいをかじりながら、焼き終わりを待つ。個室の壁には液晶画面があり、もうすぐ焼き終わります、などと文字が流れる。その画面から、ピロリロリン、ピロリロリン、と焼き終わりの合図が鳴る。また便所に行っていたSを待ってから、みんなそろって焼き場に行く。ざぁっと銀色のトレイのうえにSの父の骨が流れる。係りの人が頭と喉仏の骨をよけ、ほかの大きな骨をそれぞれが箸で骨壺に入れていく。骨のなかからミシンのボビンのような金具がふたつ出てくる。頭の手術をした方はこういう金具が出てきます、と、係りの人。これ欲しい、もらっていい?とSが骨のなかから金具を取り出しハンカチに包む。骨壷に残りの骨をすべて納めてお終い。斎場に戻って飯を食べる。Sの兄が、ふつうの父親ではなかったですが、いい父親だったと思います、と喪主の挨拶。

お骨とともに車で上板橋のSの実家へ。実家に残っていたSの母と、香典返しや、これからのことなどの話し合い。お棺にこんなマークがあった、と合掌マークを図説していると、パンティにしか見えない、とSの兄。Sの母から、仕事で行ってきた金沢土産の、大門素麵、氷見うどん、レトルトのカレーなどもらう。

夕方早めにSと車で雑司ヶ谷に戻る。シャワーを浴びて疲れて転がる。カジサックとやべっちの動画、お笑いで一番になりたい、とやべっち。夕飯、大門素麵、ゴーヤのツナ和え、冷奴。素麵うまい。

S家泊。

東京都の感染者数、168人。

 

7月21日火曜日

曇り。Sはわかめうどん、わたしはかき玉うどん。今田耕司バイオハザードやる配信動画。Sは上板橋の実家へ。

仕事の絵。

夕方、S戻る。一緒に西友へ。夕飯は、氷見うどん、山芋、トマト。M家泊。

東京都の感染者数、237人。

 

7月22日水曜日

曇り、雨。納豆ご飯。往来座へ。Sが1日中店にいるのは久しぶり。Sの昼飯、三升屋で鶏テリマヨ弁当、ローソンでアイスコーヒーのメガサイズ。

S家に戻り映画「上州鴉」を観る。

仕事の絵。一発で描ける。

夜、往来座へ。一発で描けた絵を店番nに見せると、似てない、と。引っ越し整理中でまた本を売りに来てくれたHIちゃんと、Sと、升三へ。退職したHIちゃんに、お疲れさま乾杯。香典返しの不毛さ、人を育てることをやめたためにいままで出来ていた技術が出来なくなっていくこと、文化が死んでいく話、など。HIちゃんを副都心線雑司が谷駅まで送る。M家泊。

東京都の感染者数、238人。

 

7月23日木曜日

雨、曇り。ヨーグルト。S家へ。先日、Sの母からもらった金沢のレトルトカレーを温めて食べる。Sはターバンカレー、わたしはアルバ熟成カレー、どちらもうまい。映画「真昼の決闘」観る。

仕事の絵。

東京都の感染者数、366人。

上板橋の実家に行っていたS、夕方戻る。疲れた、買い物行けない、というのでひとりで西友へ行く。水餃子鍋、しめにラーメン。映画「浮雲」を観る。ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ、もう別れろよ、こんな男のどこがいいんだよ、腹立つわー、などと言い合いながら観る。池袋と目白のあいだの線路沿いの道を、高峰秀子森雅之が歩いている。いまの花の橋の辺りから、目白駅に向かって。昔の西武池袋線も映る。M家泊。

 

コロナの夏 7月10日から7月16日

7月10日金曜日

曇り、雨。納豆ご飯。昼のニュースで、品川駅で通勤中の人たちにインタビューをしている。「今日からイベントの入場者数が上限5千人に緩和されましたが、どう思われますか?」聞かれた通勤中の人たちは、まだ早いんじゃないですかね、などと律儀に答えていたが、どうしてこの場所で彼らにマイクを向けたのか、さっぱりわからない。往来座へ。Sの昼飯、ローソンで鶏天ちくわ天うどん、アイスコーヒーのメガサイズ。仕事の資料をセブンイレブンでプリントアウト。ポポ番へ、18時半まで。途中、HIちゃんから、いま副都心線で向かっている旨のラインが届く。明日かと勘違いしていたので、慌てて往来座へ向かう。引っ越し片付け中のHIちゃんからダンボール一箱分の買取り。HIちゃんと近くの升三へ。閉店後、Sも来る。亡くなったJちゃんとHIちゃんで組んでいたバンドでのオリジナル曲、シャッターを閉めないで。かなしい、ということばの重みの違い。

東京都の感染者数243人。M家泊。 

 

7月11日土曜日

曇り、雨。納豆ご飯。往来座へ。Sの昼飯、ローソンですだちおろしうどん、アイスコーヒーのメガサイズ。が、母屋の焼き鳥弁当が食べたかった、買う前に聞いて、うどんは後で食べるから、と言われ、頭にきてうどんは持って帰る。

仕事の絵。

夕方、うどん。

「沖縄の米軍でコロナ大規模感染を確認。複数施設で60人超との情報」のニュース。

夜、西友へ。夕飯は、ひき肉トマトのショートパスタ、薬味サラダ。プレステ2で「鬼武者」を最後まで。本編が短いが、終わると特典で鬼武者がパンダの着ぐるみを着て戦うゲームがはじまる。S家泊。

東京都の感染者数206人。

 

7月12日日曜日

晴れ。アボカド納豆ご飯。ハンバーグ師匠の動画。

仕事の絵。

夜、Sと車8号ちゃんで中仙道をほぼまっすぐ、浦和のMIくんちに配達。帰りも中仙道をほぼまっすぐ、サンシャイン通りブックオフ西友に寄ってから帰る。車中でSがでっかいステーキが食いたいと言ったので、安く巨大ななんとかビーフを買い、おいしい焼き方をネットで調べ、焼く。中くらいのフライパンにでかい肉を無理矢理2枚並べたので、肉汁がぜんぶ外に出る。オニオンスライス、冷奴。ブックオフで買った「鬼武者2」をやりはじめる。画像がきれい。三浦哲郎『完本 短編集 モザイク』のなかから「とんかつ」「めまい」をSが朗読。S家泊。

東京都の感染者数206人。

 

7月13日月曜日

曇り。かぼちゃベーコンクリームパスタ。Sの父親が入院している病院から電話。呼吸が、あと2〜3日かもしれない、と電話口からもれる。Sは父の関係者あちこちに連絡をしている。

車で、ガソリンスタンド、往来座に寄ってから、上板橋のSの実家へ。なんかいるものあるかなぁ?とSが聞くので、判子とかは全部上板橋にあるんだよね?と言うと、キノコ?と聞き返される。運転はさぁ首なんだよ、目じゃなくて、ギターも手首なんだよ、指じゃなくて、あ、どっちも首だ、とSは運転しながらいまじゃなくてもいい話をし続ける。何度も通った慣れた道だが曲がるところを間違え、止まるはずのところを止まらず、ときどき大きなため息がもれる。

Sの実家に寄り、ベルクスイトーヨーカドーでぶどうを買い、Sの父親が入院している病院へ。コロナで面会人数も時間も短縮されているが、2〜3日かもしれない家族は別らしい。入り口で検温、消毒、35.1度。4人部屋の入ってすぐ左手のベッドに、目を開けたまま、呼吸器をつけ、Sの父親は横たわっている。髪が伸び、痩せて、写真で見たことのある若いころの顔みたい。先に来ていた上板橋の仲間JUさんが、ベッドの横の椅子に座っている。JUさんとSと、目を開けたままどこを見ているのかわからないSの父親に向かって話しかける、が応答はない。医者に許可をもらい、つぶしたぶどうの汁をスポンジの先に染み込ませ、呼吸器をずらしたSの父親の、くちびるに、舌先にのせる。Sの父親は入院中に誤嚥性肺炎をおこしてから2年近く、口から水も食物もとってない。見舞いに行くと必ず、今日はなにか持ってきたか?ぶどうは持ってきたか?と聞かれ、嚥下のリハビリしたらね、リハビリしたらまた食べられるようになるからね、と言い続けた2年間だった。カーテンの向こう、隣りのベッドから若い女の見舞客の声。ミキちゃんがなかなか来られないけどお父さんによろしくねって。ミキちゃんがよろしくねって。聞こえてる?17時過ぎに一度、病院を出る。

車で雑司ヶ谷へ、Sの着替えを取りに戻る。髪切ろうかな、とSは言い、風呂場でバリカンで頭を刈りはじめる。途中で呼ばれ、刈り残しを刈る。車でまた上板橋へ。駅前のセブンイレブンイトーヨーカドーで時間をつぶし、仕事終わりに神奈川からかけつけたSの兄を上板橋駅前でひろい、一緒に時間外の病院へ行く。Sの兄は、まだ早いよなぁ、と独り言のようなことばを、後部座席で繰り返している。

昼間来たときと違い、病室に流れていたラジオも消され、ほかの入院患者たちの寝息が聞こえる。今度はSの兄がぶどうの汁を舌にのせる。Sの兄は指で父のまぶたを押さえ、何度も目を閉じようと試みるが、まぶたはおりない。

Sの兄がベッドのそばを離れ、通路へ出たときだった。Sは鼻をすすりながら、自分の口を父親の耳の横に寄せた。寝息の聞こえる病室に不似合いな、大きな声が響く。言い逃したくないからいま言うね、今までありがとね、たくさんありがとね、こんなに大きくしてもらってありがとね。ときどき涙でことばがつまる。

車で上板橋に戻り、3人で駅前の大番ラーメンへ。ラーメンを待つあいだ、Sの兄が妻のEさんに病院で聞いた話を電話で伝えている。目が閉じられなくなると、あと2〜3日とか、今夜とか、きっと経験則なんだろうね。わたしは大番ラーメンと餃子、Sはチャーシュー麺と餃子、兄はつけ麺と角煮丼のセット。8キロ痩せたがリモートワークで4キロ戻ったと話す兄は、こんなの食べてるの見られたらEさんに怒られちゃうな、とばつが悪そうに食べる。食べ終えて、わたしは上板橋駅から東上線で池袋へ戻る。S家泊。SとSの兄は上板橋の実家に泊まる。

東京都の感染者数113人。

 

7月14日火曜日

雨、曇り。かき玉うどん。うどんを食べていると、一匹の猫が横でゲロを吐き、一匹が猫便所でうんこをしはじめ、もう一匹が別の場所でうんこをしながら走り抜け、廊下にうんこが点々と転がっている。

Sから、まだ大丈夫、とラインが届く。風味亭が火事らしい、とも。

仕事の絵。

夜、東上線上板橋へ。北口駅前で見渡すと車から手を振るS。父の容体はかわらず、昨日より呼吸音が楽になった、おれも兄ちゃんもいまじゃなくても言い話をし続けて疲れた、とS。ちょっと散歩しよう気を抜こう、と言うと、ビール飲みたい、というのでコジマの駐車場に車を停め、マイバスで缶ビールを買い、飲みながら七軒屋公園へ行く。ここで父とキャッチボールをした、とS。そこから、ポンさんの大きな木、通っていた保育園、小学校のとき女の子から告白された地蔵前、を飲みながら歩く。死に待ち、死に待ちだよね、どうして時間をつぶしていいかわからない、とS。ブービックで夕飯。焼肉を食べながら、Sはノンアルビールを飲み、ご飯をおかわりする。Sは今日も上板橋の実家へ泊まる。わたしは東上線で池袋まで、S家へ。

東京都の感染者数143人。

ツイッターでは、「#GoToキャンペーンを中止してください」。

0時過ぎ、布団に転がっていると、病院から電話があった、とSから連絡が入る。終電に間に合うか、それともタクシーか、悩むのも面倒で、往来座のチャリに飛び乗り板橋の病院を目指す。小雨で体が濡れていく。途中、ビックボーイ跡地に出来た焼肉屋のところで、一度連絡しようとスマホを見ると、亡くなりました、とSからのラインに気づく。電話をもらってからほぼ1時間後、病院の駐車場に着くとSの姿。間に合わなかった、とS。

一緒に病室へ。霊安室はなく、さっきまでの4人部屋のベッドにそのまま、病院着から麻の葉文様の浴衣に着替え、顔に白い布をかけられ、Sの父親は横たわっている。Sとベッドの横に置いた椅子に座り、上板橋の仲間のひとりが働く葬儀屋の到着を待つ。部屋からは、ほかの3人の寝息が聞こえる。廊下や階段をぱたぱた歩く、スタッフたちの足音が響く。Sがスマホの電卓を押しながら、父が倒れてから2013日目だ、と小さな声で言う。心電図が止まったのは0時2分なんだけど、家族がいないと死亡確認できないんだって、だから亡くなった時間は0時20分、死亡診断書も今日は出ないって、明日だって。2時近く、葬儀屋がやってくる。通路に出され待っていると、白い布で全身を包まれたSの父親が、ストレッチャーにのせられて出てくる。エレベーターが閉まるまで、病院のスタッフたちが頭をさげ続ける。

Sの実家へ葬儀屋の車を案内する。路地の奥の入れるところまでケツから車を入れる。敷き布団、掛け布団、枕、座布団、を出してください、と言われ、どこに閉まってあるかわからず押し入れをあちこち開けて探す。Sの父親を自宅で介護していたとき、介護ベッドで寝ていた部屋に布団を敷く。葬儀屋は、北はどちらでしょうか、と言いながらスマホの方位磁石で北を確認し、宗派も確認し、それではおつむは北枕で、とSの父親を寝かせ、ドライアイスを体のうえにいくつも並べて布団をかける。冷房は強めでつけっ放しにしてください、と葬儀屋。小さな祭壇のようなものに、ろうそく、鐘、線香立て、などを設置し、では今日はこれで、明日の午前中にまた参ります、と葬儀屋が帰っていく。こんなにいろいろ用意するなんて知らなかった、あせっちゃった、おつむなんて言うから笑いそうになっちゃった、とSが笑う。ドライアイスが入っていた保冷バッグが置かれていた床が素足に冷たい。庭に生えていた花をむしり小さなガラス瓶に入れて添える。ありんこついてる、とSが言い、1匹つまんで捨てに行く。

買い物に行くSとコンビニの前で別れる。Sは今日も上板橋の実家に泊まる。わたしはまたチャリで雑司ヶ谷まで帰る。行くときは池袋から大山までの道のりを遠く思ったが、帰りは上板橋から大山に出るまでを遠く思う。また小雨で体が濡れていく。要町近くのボーリング場、巨大なハタ・スポーツプラザは取り壊し中。池袋の西口のラブホ街から飲屋街を抜けて走る。交差点の信号でサラリーマンらしきスーツ姿の男が3人、もうおっぱい行きましょう、おっぱい、と声をあげている。3時過ぎでも池袋演芸場そばの飲屋街には客引きの姿がちらほらある。カラオケのパセラは、深夜とも思えない音量で流行りの歌をスピーカーで吐き散らしている。雑司ヶ谷に着いたのは4時近く。S家泊。

東京都の感染者数143人。

 

7月15日水曜日

曇り。昼過ぎに電話すると、兄とEさんが来てくれてる、これから葬儀屋さんが来るよ、とS。かぼちゃクリームパスタ。

仕事の絵。

東京都の感染者数165人、警戒レベル最高に引き上げ。

夕方、着替えを取りにSが雑司ヶ谷へ戻る。おばさんたちがさぁ、父の顔を見て、あらおばあちゃんそっくりねって。Sと、池袋西武の地下で花を買い、東上線上板橋へ。道で、弔問に来てくれたJUさん、BUさんとすれ違う。1時間近くもいてくれたらしい。Sの実家に着くと、Sの兄とEさん。JUさんたちからもらった立派な百合が供えられている。引き継ぎして兄たち帰る。缶ビールを飲みながら、見ながら泣きたい、とSが押し入れから持ってきたSの父の若いころのアルバムを見る。ときどきSがぴゅっと泣く。駅前のひなたへ。カウンターは2人分ずつ透明のビニールで区切られている。焼きトン、パクチーのサラダ、山芋、セロリの漬物。Sは今日も上板橋の実家に泊まる。わたしは東上線で池袋まで。S家泊。

 

7月16日木曜日

曇り。かき玉うどん。映画「この広い空のどこかで」を観る。でこちゃん。

仕事の絵。

夜、往来座に寄ってから、東上線上板橋へ。Sと改札で落ち合う。駅前のファミマで缶ビールを買い、飲みながら実家へ。病院から戻ってきた荷物をひっくり返し、眼鏡をSの父親の枕元に置く。花の水をかえる。nとPOさんが好きだという、よろい寿司に行ってみたい、とSが言うので行く。玉子焼き、ジュンサイ、ホヤ酢、中トロ、穴子。食べ過ぎる。駅前でSと別れる。Sは実家へ。わたしは東上線で池袋まで、S家泊。

 東京都の感染者数286人、過去最多を更新。

 

 

 

 

 

コロナの夏 7月3日から7月9日

7月3日金曜日

曇り、雨。納豆ご飯。往来座へ。Sの昼飯、セブンイレブンで大盛りペペロンチーノ、アイスコーヒーのLサイズ。金沢へグッズをゆうパックで送る。ポポ番へ。ずっと香川に帰っていたOさんに数ヶ月ぶりに会う。18時半、kaさんに交替して退勤。往来座へ。ギターに触る。大倉で買い物。鶏つくね鍋、しめに玉子雑炊。Tverでテレビ千鳥。

「東京都の感染者数124人」のニュース。2日は107人だった。豊島区、池袋でもクラスター発生とのこと。M家泊。

 

7月4日土曜日

曇り。納豆ご飯。母が見ている、とうちゃこー、もリモート収録。何もなければ1000回目の記念の年だった、と日野正平がソファに座りながら語っている。往来座へ。Sの昼飯、ローソンでサンドイッチ、アイスコーヒーのメガサイズ。

仕事で使う資料探し。

 夕方、ポポタムへ。ポポ番スタッフと缶ビールを飲みながら、業務連絡、今後の指針など話し合い。Oさんが買ってきてくれた腰塚のコンビーフ弁当もらう、うまい。一足先に抜けて、サン浜名へ。S、ZA先輩、KANさん、KOさんが飲んでいるのに混ざる。都知事選、政治家の名前呼び捨て問題などをだらだらと飲みながら。池袋駅までの帰り道、KOさんの、なに線で帰るか聞いて?から「なに線」遊びがはじまる。なに線で帰るの?リンパ腺、イチジュウヒャクセン、かっぱえびせん都知事選。帰って、Sは途中のファミマで買った漬物にスライスチーズを巻いて食べている。テレビで、お笑い向上委員会、にちようちゃっぷりん。リモートで見る大吾とノブの絵面の既視感、電波少年みたい。S家泊。

 

7月5日日曜日

曇り、雨。アボカド納豆ご飯。宮迫がバイオハザード7をやる動画。Sは往来座へ。

資料探し。セブンイレブンで資料のプリントアウト。

夕方、Sと都知事選の投票へ。わたしは南池袋小学校、Sは新しくできた雑司ヶ谷公園内の丘の上テラスが投票所。机においてあった鉛筆を取ろうとすると、消毒済みですから、大丈夫ですよ、と係りの人。

夜、往来座へ。スマホを見ていた店番Nが、ちょっとー、小池百合子当確だってー、と叫ぶ。明日シャッターの工事が入るため、SとNと明治通りを歩いていたMIくんと、工事に邪魔なレジ裏のものをバケツリレー方式で床に移動させる。終わって、Nはかんペのコピーをしに、残りの3人で「泣くかもしれない」の動画作成。泣かそうとしているからじゃないですか、心がこもっていない、など散々言われる。本搾り夏柑味3本。MIを池袋駅前まで送る。母にもらったお麩が入っているというそーめんをゆでる。麺が甘い、おいしくない。S家泊。

 

7月6日月曜日

雨、曇り。Sに冷やし納豆うどんを作る、が納豆をほぼ残す。おなかが痛い、今日はおれがうんこもらす、と言いながら便所に入ったり出たりしている。定休日だがシャッター業者が工事に来るため、Sは往来座へ。

仕事の資料探し。

九州豪雨被害。

夜、往来座へ。シャッターが片手であがる、とうれしそうなS。片付けているSを残し、大倉で買い物して先に帰る。腹によさそうだと作った夕飯のクリームシチュー、Sはおいしいといいながら何度かおかわりし、最後にチンしたご飯を入れて食べている。プレステ2で「鬼武者」の続き。M家泊。

 

7月7日火曜日

曇り、雨。納豆ご飯。往来座へ。店番のはずのTが通風の再発で休み、Sが一日店番。

仕事の絵。

九州豪雨被害、長野、岐阜でも。

7月7日のエンテツさんのブログ「ノンアルビールとプラシーボ効果」。浴びるように酒を飲んでいた人がノンアルビールで酔うのか。しめのことば「最近、ノンアルビールばかり飲んでいたら、もっと強いノンアルが飲みたくなった。ノンアルウィスキーとか」。読んでいると面白くて脳がぐらぐらする。

ノンアルビールとプラシーボ効果。: ザ大衆食つまみぐい

マルエツで買い物。夕飯は、豚しゃぶおろし蕎麦、母にもらったさつま揚げ、ゴーヤのツナ和え。プレステ2で「鬼武者」の続き。M家泊。

 

7月8日水曜日

曇り。納豆ご飯。往来座へ。Sの昼飯、三升屋でハンバーグ弁当、ローソンでアイスコーヒーのLサイズ。

仕事の絵。

Hからラインをもらい、往来座へ向かう。Hにサコッシュ託す。どこに飲みに行くか悩んだすえ、7月1日から1ヶ月間、宮迫フェアをしている東池袋の「串カツ田中」へ行く。行く途中、缶ビールを飲みながら、観光客のいない竹富島に行った話を聞く。串カツ宮迫でサイコロふり、出た数によって、酒がただになったり、メガサイズになったり、を飲む。Hとテラスで飲んでいると、道からこちらに手をふる女が。こんなところで音痴Tシャツ着ている人がいると思って顔を見たら、大塚の日比谷花壇に花をもらいに行く途中、という近所のu。誘って一緒に飲む。店を閉めてからSも来る。沖縄でヤマトと言われた話など。分断。

ミニストップでソフトクリーム買い、食べながら帰る。M家泊。

 

7月9日木曜日

曇り、雨。納豆ご飯。S家に行き、わかめとネギと豚肉のうどんをSに作る。

仕事の絵。

「東京都新たに224人の感染確認」のニュース。7日は106人、8日は75人、だった。

夕方、豊島区役所跡にできたTOHOシネマズ池袋へ。エスカレーターあがったロビーで待っているとSが来る、遅れてZA先輩来る。6時5分の回の映画「カセットテープ・ダイアリーズ」を観る。入り口で、画面の前に立つ形式の検温、35.9度。映画館は100人くらいの大きさで客は10人ちょい、一席ずつ開けて座る。映画がはじまる前に2度、映画館でのコロナ予防対策のCMが流れる。「カセットテープ・ダイアリーズ」は、イギリスのさえない町に住むパキスタン移民の子どもが主役。大学に入り知り合ったシーク教徒の学生からボス(ブルース・スプリングスティーン)のカセットを借りたことで、彼自身と彼の家族、隣人、世界を少しずつ変えて行く話。見終わって、低予算過ぎる、途中で席を立とうかと思った、なんで踊りだすの、ブルースは好きだけどブルースのファンは嫌いなんだよ、など、ZA先輩から散々の言われよう。が、飲みに行ったサン浜名でもずっと映画の話。飲み終わって、大きな声で歌いたい、カラオケ行こうと言い出し、カラオケはいまちょっとということで、閉店後の往来座の店内でギター、即席太鼓、ブルースハープをやりながら、ZA先輩大声でブルース熱唱。しかも前日に下見としてTOHOシネマズ池袋に来て「千と千尋の神隠し」を観ていたことも発覚。終電を気にしながらZA先輩帰る。M家泊。

犀星スタイルトート出来ました。

新しい室生犀星グッズのご紹介です。犀星スタイルトートバッグLサイズ、金沢の室生犀星記念館で販売開始いたしました。気軽に金沢に行くことが出来ない日々ですが、記念館の犀星グッズは通販できます。犀星Tシャツ、トート、サコッシュ、冊子など、金沢に行けなくとも、どーんと犀星にまみれてください。みなさま、ぜひ。

絵葉書 | オリジナルグッズ | ミュージアムショップ | 室生犀星記念館

f:id:mr1016:20200707212638j:plain