断片日記

断片と告知

無理

今を逃してしまうと、おそらくこの先一生読まないであろう本「蟹工船」を読む。せっかくならば気分を出してと、ほるぷ出版の名著復刻版で読む。パラフィン紙が、ガサガサとずれて読みにくい。
蟹工船には乗りたくない、この時代の北海道・樺太の開拓民にはなりたくない、炭鉱でも働きたくない、虱より無雑作にタタキ殺されたくない、棒杭にしばりつけておいて馬の後ろ足で蹴られたくない、裏庭で土佐犬に噛み殺されたくない、蚤の子よりも軽く海の中にたたき込まれたくない、脚気なんかで死にたくない。「赤化」とか「資本家を倒せ」とかよりも、この時代に生まれなくて本当に良かったという気持ちしか浮かばない。
この単行本には「蟹工船」のほかにもう1話「一九二八年三月十五日」という話も入っている。捕まった人たちが警察で拷問を受けている。母や、妻や、子供が泣いているけれど、俺はくじけないぞ、な話。これもどちらかというと、そんな運動からは足を洗って普通に暮らそうよ、という感想しか浮かばない。
この2つの話を読んで、何か運動を起こそうという気には全くなれない。それどころか、どんなに不景気でも、就職先がなくても、物価が高くても、今の時代の方がマシでしょ、と思わせるために読まされているような気がしてならない。