断片日記

断片と告知

大井武蔵野館

26日の午後の話。
夕方、大井町でナンダロウさんとミニコミ「酒とつまみ」の大竹さんと待ち合わせ。ナンダロウさんが「酒とつまみ」に連載している「古本屋発、居酒屋行き」の取材に同行する。毎回取材にはゲストが呼ばれ、そのゲストは飲み代タダだから、というわけで喜んで馳せ参じる。まずは西口に出て、今は無き名画座「大井武蔵野館」跡を探しに行く。学生の頃、石井輝男監督の映画を何度か見に来た思い出がある。大きな道の突き当たりのボロっちいビルだったと記憶するが、通っていたのは15年くらい前のことなので定かではない。駅の周りも、映画館まで行く道も、変わりすぎてて歩いても何の感情も浮かばない。まるではじめて来た、はじめて歩いた町のようだ。古くからやっているソープランドの看板を見て、ここは昔からあるよな、とナンダロウさんは言うけれど、それも覚えていない。やましい気持ちがあったから覚えているんじゃないの、と聞けば、そんなことないよ、と否定されるがどうなんだろう。ソープランドは雑居ビルの上の階にあるのだが、そのビルの1階には「和風小料理 女っ気」もある。このネーミングセンス、素晴らしいと思う。「ソープランド ゆき」と「和風小料理 女っ気」の看板が並んで立っているところを写真に撮る。大きな道の突き当たりまで歩くが、「大井武蔵野館」跡らしきものはない。駄菓子屋があったので、3人で駄菓子を買いながら「大井武蔵野館」のあった場所を聞く。教えてもらった場所に行くと、そこには大きなマンションが建っている。跡形もない。ここで阿部定を見たんだよー、と叫ぶ声もむなしい。
駄菓子屋で買った小さな袋の麦チョコを食べながら、古本屋を目指して歩く。この取材はいつもこんな風にダラダラと町を歩いているだけなの、と大竹さんに聞くと、そう、たいした話もせずにね、とうふふと笑っている。大竹さん、よく見ると目が血走っている。聞けば、今朝4時まで飲んでいたとのこと。そんなんで今日も飲んで大丈夫なのかと心配すると、2〜3杯飲めば繋がるから大丈夫、と。繋がる、朝まで飲んでいた酒に繋がる、繋がれば大丈夫、そんな理論はじめて聞いた。
大井町のガード下の飲み屋を冷やかしながら、古本屋を2軒周り、駅の東口にある飲み屋街「東小路」そばにある「肉のまえかわ」へ行く。酒屋の立ち飲みはよくあるが、ここは肉屋の立ち飲みなのだ。入ると、左手に肉屋によくあるショーケースがある。よくあるショーケースだが、そこに生肉は入っていない。チャーシュー、コロッケ、串カツ、ポテトサラダなどのおつまみが並ぶ。右手では、若いお姉さんが焼き鳥を焼いている。奥には缶ビールの入った大きな冷蔵庫がある。客は、冷蔵庫から自分で缶ビールを出し、ショーケースの前でツマミを選び、ビールとツマミと共にお会計をする。焼き鳥は、酒やつまみとは別におねえさんに直接頼む。イベント会場にあるような細長いテーブルの一角を陣取って、3人で乾杯する。2杯飲んだところで、次の店に向かう。ここからすぐ近くのモツ焼き屋。ビルは新しいが古くからやっている店だそうで、壁に下がる木札のメニューには年季が入っている。町を歩きながら、ここでこうして飲みながら、大竹さんの話をいろいろと聞く。実はちゃんと飲むのははじめてなのだ。タモリ倶楽部の話、前勤めていた会社の話、家族の話、どれも素敵に面白いので、ここには書かない。一緒に飲んだ人間の特権よ、と心にしまっておくことにする。