断片日記

断片と告知

布団の中

子供の頃、怖い本、怖いテレビ、怖い映画、が大好きだった。ひばりコミックスを読み漁り、夏休みには「あなたの知らない世界」と心霊写真特集を見るのを至上の喜びとし、ゾンビ映画全盛時代に生まれたことを謳歌していた。昼間はよかったが、夜になると怖かった。風呂に入りシャンプーの泡で目をつむった瞬間にやられると思った。便所でしゃがんだ瞬間に天井からやられると思った。布団に入り眠気で意識を失った瞬間にやられると思った。ひとりになる場所で隙を見せたら、昼間見たものたちに確実にやられる、と何故か頑なに思っていた。風呂と便所はまだいいが、意識がなくなる睡眠という行為が一番危険に思えた。寝た瞬間、部屋に積み上げてある怖い漫画や本のページの隙間から何かが出てくると思っていた。それを防ぐために怖い本の上には重たい本を何冊も重ねて寝たが、安心できなかった。絶対安全地帯は布団の中だけだった。手でも足でも少しでも出たらやられてしまうので、頭から足先まですっぽりと布団にくるまって寝た。頭まで布団にくるまれば当然息が苦しかった。小さな隙間なら大丈夫かもしれないと都合よく思い、砂浜の蟹の穴のような隙間を敷布団と掛け布団の間に作り、そこから空気を吸っていた。昨年末に出た「こどものとも年少版 しきぶとんさん かけぶとんさん まくらさん」を読み、布団が布団以上の存在だった、そんな子供の頃を思いだした。