断片日記

断片と告知

トーキョー絶滅危惧種

物干し台が好きだ。物干し台で真っ白い洗濯ものが風に吹かれて揺れている姿を見るのが好きだ。これはたぶん小さいときの記憶。昔の、建て直す前の家の記憶のせい。昔の我が家には、物干し台があった。1階の屋根の上にちょこんと乗るようにして、鉄製の物干し台があった。いくつかの植木鉢、たまに咲く大きな牡丹の花、干してある真っ白で大きなシーツ、その間を体を滑らせて歩くこと。そのどれもを愛していた。そんな記憶があるものだから、今でも物干し台への愛着は強く、道を歩いていて良い物干し台があるとついじっと見てしまう。
そんな大好きな物干し台が減ってきている。バルコニーやベランダや屋上ではなく、屋根の上にちょこんと乗っている、鉄製や木製のあの物干し台を見なくなった。当たり前といえば当たり前のことで、新しく家を建てるときに、今さら物干し台をオーダーする人はいないということ。そもそも建売住宅にそんなものは付いていないということ。古い家が壊されていけば、このまま物干し台は消滅する運命にあるということ。そんなことを考えて悲しくなった。
物干し台は、いいですよ。あそこで寝転んで空を見ながら読書をしたり、ビールを飲んだり、もちろん洗濯ものは干すとして、そこから花火なんかが見えたら最高じゃないですか。ベランダとかでは、ダメなんです。あの、ちょこんと屋根の上に乗っかっている、あの空に浮いているような浮遊感と骨組みが、いいと思うんです。