断片日記

断片と告知

おばあちゃんのトマト

青山にあったナディフが、恵比寿に復活した。サイトを見て、頭に地図を入れる。副都心線明治神宮前まで行き、そこから散歩しながらナディフを目指す。歩いている間中、ずっと眠かった。パトラッシュ、なんだかとっても眠いんだ、とつぶやきながら歩く。軽い熱中症だったのかもしれない。
恵比寿の、いつも行かない辺りの、さらに行かない路地の奥に、新しいナディフはあった。1階の本屋部分を見る。店が小さくなった。本が少なくなった。洋書が減った。雑誌がなくなった。音楽CDもほとんどない。渋谷の文化村や、木場の美術館にある、あのナディフと同じ雰囲気。ここが本店ならば、もう少し充実させて欲しい。西武美術館の頃から、アール・ヴィヴァンの頃から追いかけているファンとしては、ちょっと物足りない。ここだけでしか見られないものをもっと見せてくれ、とワガママを言いたい。
地下のギャラリーを覗く。地下の暗い空間に深さ30センチくらいの水がはってある。なので、本屋から続く螺旋階段の途中から浸水し、中に入ることが出来ない。階段の途中に立って、中を覗く。途中で作ることを放棄した、工事現場のように見える。いくつかのペットボトル、ブルーシート、木材が水に浮いたり、沈んだりしている。壁には落書き。そして部屋の真中に立つしょんべん小僧が、延々としょんべんを垂れ流している。
このビルの隣には、古いアパートが建っている。空家かと思っていると、このアパートに入ろうとしている、ビニールの袋を下げた買い物帰りのおばあちゃんと目が合う。目が合った瞬間、暑いわねぇ、眼鏡がくもるわねぇ、と話かけられる。そうですねぇ、とおばあちゃんに聞こえるか聞こえないかくらいの声で返事をしながら、笑ってうなずく。アパートの入り口横の小さな花壇には、トマトが植えられている。あのおばあちゃんが、植えたのか、食べるのか、と思うと妙にうれしくなる。まだ青くて固い実のトマト。早く赤くなるといい。