断片日記

断片と告知

いつか信太郎を買う

有楽町線の有楽町駅で降り、改札を出て地上に上がる。何度見ても見慣れない、この駅前の変貌ぶり。あのピカピカツルツルしている建物には近寄る気にもなれない。仕方なく、また下を見て歩き、数寄屋橋交差点のところまで来て顔を上げる。自分の中の銀座がそこにはある。銀座の町にあった川や掘割が埋め立てられたときも、そこを知っていた人たちはこんな気分を味わったのだろうか。服部時計店のある交差点まで来て顔を上げ、ホッと一息ついたりしたのだろうか。
ソニービルの横の横にある日動画廊へ。まずめったに訪れない、銀座の中でももっとも敷居の高い画廊。そこにに来たのには訳がある。アトリエ同居人のAさんがここで個展をしているからだ。人の形をしたドアノブを掴み、その重いドアを開ける。1階では所蔵品展をしており、ギャラリーの人たちの目を気にしながらもその飾ってある作品を見ると、脇田和、児島善三郎、鈴木信太郎中川一政、となかなか好みの品揃え。思い切って入ってよかった。買うならどれかな、と妄想をしつつ、眺めることの贅沢さよ。この中なら、鈴木信太郎さんの風景画だな、君これをキャッシュで、といつか言ってみたい。1階の奥にある階段を下り地下のギャラリースペースへ。Aさんと、奥さんにご挨拶。ゆっくりと絵を見る。一緒のアトリエで、その描いている姿も、描かれて壁に貼ってある作品も見ているのに、ここにこうして額装され飾られている絵を見ると、まるで違ったものに見えてくる。不思議なものだ。外国の町とその上に広がる大きな空の絵が、見ていて気持ちよかった。
有楽町線に乗り、池袋に戻る。アトリエで帯を作り巻く。さっきまでいた銀座の華やかさと、この地味な作業のギャップがまたなんとも言えません。