断片日記

断片と告知

街道

阿佐ヶ谷駅から中杉通りを歩き、青梅街道を右折。そのまま荻窪方面に歩き、JAの横を左折。古い家並みを道の両側に見ながら住宅街を歩くと電柱に広告が貼ってある。広告の指す方の路地に入っていくと門扉に看板が下がっている。門の奥には普通の古いアパートが建っている。アパートの外階段を2階へ上り、扉を開けると、そこに「ギャラリー街道」がある。
ギャラリー街道は、写真家の尾仲浩二さんと奥様のSさんが作った写真専門のギャラリーだ。
古い、風呂なしの、共同便所のアパートの2階。入ると、共同の流し場があり、便所があり、その奥に三畳と四畳半の部屋がいくつかある。一部屋は尾仲さんの暗室、一部屋は奥様のSさんがやっている古本と雑貨の店「由古堂」、残りの部屋は全てギャラリーになっている。
写真を見て、尾仲さんと話し、Sさんと話し、由古堂の古本を見て、この古いアパートの下宿の雰囲気が懐かしくて、ついつい長居をしてしまう。Sさんとは、以前の職場が同じだった。旦那さんの尾仲さんが、林哲夫さんのブログに紹介されていた「死闘篇」に興味を持ち、Sさんが調べてみたら元同僚の本だった、と驚いて連絡してくれたのだ。ずっと来てみたかったギャラリー街道に、自分の本を持って遊びに来れたことがうれしい。尾仲さんが、前回の「月の湯」古本まつりに来てくれていたこと。Sさんが早稲田の古本街の古書現世がお気に入りで何度も本を買ったことがあること。そんな話を聞く。人と人との繋がりはおもしろい。ジグソーパズルのピースが少しずつはまって何かの形が見えてくるように、友人知人たちのピースもぱちりぱちりとはまりながら何かの形になっていく。
うれしいときは、そのまま電車に乗ってまっすぐ帰るのが惜しい気がする。こういうときは少し歩きたい、歩こうよ、歩くのだ。中央線の高架を近くに遠くに眺めながら、住宅街を歩き、小さな商店街を歩く。車窓からよく目にしていた町並みの中を自分が歩いていること。何でもないようなことなのに、とても楽しいのはどうしてだろう。
雲行きが怪しくなってきたので、中野から電車に乗る。電車の中で尾仲さんにいただいた本「1989・夏 大阪まで」を読む。尾仲さんが発行しているmatatabi写真文庫の3巻目。1989年の夏、29歳の尾仲さんが東京から大阪の通天閣まで歩いて旅をした記録と写真。いや、歩くはずだったと、書くべきか。1989年の8月25日に新宿を出発するのだが、まず渋谷の森山大道さんを訪ね、「無理をしないで楽しまなければダメだよ。」と言われ、初日からあっけなく、「辛いときやつまらなそうなところは電車なども使っていいことにした」と、書かれているのを見て笑う。しかも、大道さんに餞別にとドラえもんの貯金箱を貰ってしまい、「ズシリと重いが道中のお守りにしようと思う」と書かれているのを見て、また笑う。しかもこの後、川崎までは行くが露出計が壊れ、結局この日は新宿まで電車で引き返している。初日からこれである。その後も、電車に乗りつつ、歩きつつ、人に会いつつ、野宿をしつつの大阪までの日々が綴られている。絵描きや、作家も変わった人が多いけれど、写真家も相当変わっていますね。
ギャラリー