断片日記

断片と告知

お会式

いつも静かな雑司ヶ谷だが、10月16・17・18日の夜だけは違う。万灯行列が町を練り歩き、太鼓の音が夜空に響く。雑司ヶ谷鬼子母神堂を中心にして、毎年この3日間だけ行われる「お会式」というお祭。「お会式」は10月13日の日蓮の命日に合わせて行われる日蓮宗のお祭なのだが、宗派関係なく、ただ太鼓が叩きたいだけ、お祭に参加したいだけ、という参加者も多い。雑司ヶ谷の1番大きなお祭なので、今はどこか違う町に暮らしていても、この日だけは帰ってきて「お会式」に参加する人も多い。
子どもの頃は、この「お会式」に参加することが、何よりの楽しみだった。親公認で夜遊びが出来ることもうれしかったし、なによりも、太鼓という楽器で一定のリズムを延々と繰り返すこと、そこからくる原始的な何か、に痺れていたのだ。太鼓の音には、心と体の底にある何かを揺さぶる力がある。この町で育った人間は、その心地よさ、を知っている。だから、この3日間、回遊魚のように、この町に帰ってきて、そのリズムの中に身を浸すのだ。
大人になった今、相変わらず雑司ヶ谷に住んではいるものの、太鼓を叩くことはしなくなった。鬼子母神の縁日の焼き鳥屋の屋台の裏に陣取って、チューハイや缶ビールを飲んでは、おでんや焼き鳥を食べている。鬼子母神の参道から聞こえてくる太鼓の音を聞きながら。