断片日記

断片と告知

銀の実食べた

はじめに桜が赤くなる。次に欅が茶色く染まる。最後に公孫樹が黄色くなって、そしていつもの冬が来る。鬼子母神の境内の樹齢600年の大公孫樹。樹の下に立つと、その枝が、葉っぱが、降るように覆い被さってくる。他の公孫樹はまだ緑なのに、この大公孫樹だけは、先っぽから少しずつ黄色くなっている。足元には、銀杏の実が落ちている。真ん丸く転がっているものもあれば、踏まれて潰れているものもある。この匂いを苦手だと言う人もいるけれど、私はそんなに嫌いではない。小さい頃は、鬼子母神の境内で遊びながら、ついでのようにこの実を拾って帰り、皮を剥いて乾かして、フライパンで炒って食べるのを楽しみにしていた。ペンチでないと割れないような固い殻の中から、緑の宝石のような実が覗くのが、なんとも言えずうれしかった。塩をふって、ホクホク、とその熱い実を食べる。子どもの頃からそんなものばかり好きだったものだから、この子は絶対酒飲みになるに違いない、と両親や親戚連中に言われて育ち、今ではその予言の通りになっている。