断片日記

断片と告知

レンブラント光線

車窓から銭湯の煙突が見えるととてもうれしい。いつかその銭湯に入りに行こうと考えることもまた楽しい。そんな銭湯のうちの1つ、西武池袋線練馬駅そばの銭湯「日乃出湯」へ行く。入り口の屋根にある、古い銭湯ではお馴染みの装飾「懸魚(げぎょ、と読む)」。木製で、鶴や亀、七福神の誰か、波や松、と縁起のいいものが彫られているのはよく見るが、ここ「日乃出湯」はその名のとおり真っ赤な日章旗のような日の出が、漆喰かなにかで作られ、その場所に飾られている。中に入るとロビーがあり、フロントがある。脱衣所に入ると大きな古い3枚羽の扇風機が天井から吊るされている。洗い場の正面、ペンキ絵は女湯では珍しい王道の富士山。富士山の裾野の下には湖か何かが広がり、赤白の帆のヨットが浮かんでいる。よく見ると、その湖には逆さ富士が描かれている。逆さ富士、ペンキ絵でははじめて見たと思う。ペンキ絵の下には1センチ四方の細かいタイルで描かれた鯉と金魚のタイル絵があり、とてもかわいらしい。浴槽は、正面の壁から左の壁にぶつかって折れ曲がり「く」の字型になっている。その「く」の小さく出っ張ったあたりは深さ30センチくらいの激浅浴槽になっている。その浴槽を通り抜けるとジェットがあり、その横には泡風呂があり、その横は深めの風呂になっている。かわっているのは、それらの風呂が鉄パイプのようなもので仕切られていること。普通はタイルで作られた仕切りがあるのだが、ここでは鉄パイプが張り巡らされ、そこに水が出る蛇口もついている。工事現場のようでもあるが、なかなか楽しい。昼の2時半、開店直後に入ったので日がまだ高い。換気用の窓からは、光が差し込み、それが湯気で曇る洗い場に光のすじを作っている。練馬の銭湯で、レンブラント光線を見ながら湯につかるというのも、不思議なものだ。