断片日記

断片と告知

トヨエツ

夜6時過ぎ。鬼子母神のけやき並木で、何かの撮影に遭遇する。大掛かりなライト、足元の石畳には偽物の雪、安っぽいバーやラーメン屋の看板、そして古い自販機が、普段何もないけやき並木を飾っている。通り抜けようと歩を進めると、これから撮影なので、とけやき並木の路地の1つに引っ張られる。いま役者さんが前を通りますんで、すぐ終わるからちょっと待っててね、と笑顔で言われ、わかりました、と素直に返事をする。その人の良さそうなおじさんの顔を見て、何の撮影ですか、と小声で聞いてみる。東映の映画だよ、とこれもまた小声で返ってくる。題名を聞くと「今度は愛妻家」とポツリと言われ、撮影中のしーんと静まり返る中、そのタイトルはいかがなものかと笑いそうになりながら横を見ると、おじさんの顔も、へへっ、と笑っていた。目の前を主演の豊川悦司が、場末のチンピラみたいな格好をして通り過ぎていく。今のがトヨエツですか、そうだよ今のがそうだよ今度は金髪なんだよ。どう見ても、これから愛妻家になるようには見えませんでした。