断片日記

断片と告知

玉川上水

久しぶりに吉祥寺へ、と思ったが新宿から電車に乗ると、停車駅が中野、三鷹だったので、それに従い吉祥寺の一駅先の三鷹で降りる。玉川上水沿いを井の頭公園目指して歩く。上水沿いのこの道は、その上水を隠すように好き勝手に緑が繁り、人も車も少なくて、歩いていて楽しい道の1つだ。今の時期は赤く染まったカラスウリと、咲きはじめた白い梅の花を見ることができる。この上水の、細く穏やかな水の流れの中で、どうやったら入水自殺できるのか、なんど見てもしっくりこない。生きることが嫌になり、一緒に死んでくれる人がいるのなら、こんな川でも死ぬことができるのだろうか。
井の頭公園のベンチに座り、池に浮かぶ水鳥を眺める。池の中の日当たりのいい場所に集まる水鳥たち。暖かい場所に集まるくらいだから、寒くないはずはないだろうに、その水面につけたままの腹は、冷たくないのだろうか。寒くても、冷たくても、水から離れて生きていけないのなら、不憫としか言いようがない。平日の昼間に、そんなことを考えながら、公園のベンチに1人座っているほうがよっぽど不憫ではないか、と鳥たちのほうが思っているかもしれないが。
武蔵野市立吉祥寺美術館で「ベトナム民間版画展」を見る。蛙、水牛、亀、豚とベトナムでよく見られるだろう動物たちと、ベトナムの神様、英雄、美人などがゴツゴツした線で表現され、ピンクや緑や黄色などの蛍光色で彩られている。大きい絵など、2枚の版木を使っているが、刷られたものを見てみるとその線がずれている。日本の木版画と違う、大雑把なところが見ていて楽しい。
トムズボックスで「及川賢治(100%ORANGE)exhibition」を見る。久しぶりに来たので、棚に並ぶミニコミや絵本も時間をかけて見る。知らない間に知らない本がたくさん出ている。1つ1つ手にとり見ていくと、不思議なことに気分が昂揚していく。自分が生きている時代に、面白いことをしている人たちがこんなにたくさんいるのかと、思えることがとてもうれしい。
なんとなく西荻窪まで歩き、新宿まで電車に乗る。なんとなく新宿駅で降り、なんとなく雑司ヶ谷まで歩く。テレビを見ながら納豆ご飯を2杯食べ、風呂に入って1日が終わる。