断片日記

断片と告知

寺子屋

中学と高校は、私立の女子校に通っていた。女子校は池袋のすぐ隣りの大塚にあった。池袋駅の人込みが嫌で、はじめは都電で通っていたが、友人ができると駅で待ち合わせをするようになり、JRで通うようになった。学校が終わると暇だった。私立なので、家の近所で気軽に遊べる友人はいなかった。映画好きの友人と、たまには銀座、たまには六本木、と学校帰りに映画を見に行くことはあったが、それもごくたまにだった。それ以外の日々、私は毎日、池袋西武の中にあったアール・ヴィヴァンで時間を潰していた。学校が終わってから夕飯までの数時間、毎日毎日アール・ヴィヴァンの中を回遊し、面陳の本はもちろん、気になる本を棚から引っ張り出し、パラパラとパラパラとひたすらページをめくっていた。ゴッホとか、セザンヌとか、ルノアールとか、どこの本屋にもあるような美術書ではなく、不思議な本がここにはあった。ドナルド・ジャッド?アンゼルム・キーファーイヴ・クライン?はじめて聞く、はじめて見る、名前ばかりだった。アール・ヴィヴァンは、ただの本屋じゃない。池袋駅と我が家の間にある寺子屋だった。それもものすごく格好良い寺子屋だった。学校で習わないことを、私はここで学んでいた。こんなことを書くのは、毎日新聞社のPR誌「一冊の本」に連載している「セゾンの人びと」が面白いからだ。堤清ニの「お声がかり」ではじまり、デパートの中の書店なのに治外法権だった、アール・ヴィヴァンという場所。続きが楽しみでしょうがない。