断片日記

断片と告知

白木蓮

毎年この時期には、新宿御苑の白木蓮を見に行くことにしている。1人で見に行くことが多いが、今日はイラスト同業者の瀬藤さん伊藤さんと一緒に行く。各自お弁当を持って、新宿の世界堂の前で待ち合わせる。新宿御苑の新宿門を入るとすぐ右側に、2本の大きな白木蓮がある。花はちょうど盛り。乳白色の小さな炎がいくつもいくつも枝の先から萌え出ている。歩きながら少し遠目に花を見る。木全体が白い炎に包まれているように見える。森の中を抜け、芝生広場の真ん中に座り、弁当を広げる。緑の向こうに顔を出す東京タワーを見ながら、買ってきたおにぎりを食べる。東京タワーを見ると上京してきたときのことを思い出す、と二人が言う。瀬藤さんは岡山の生まれ、伊藤さんは水戸の生まれ。東京の生まれの私は、少し長い旅をして帰りの新幹線や飛行機の窓から東京タワーが見えると、帰ってきたゾもうすぐウチだぞ、と思う。東京は、上京する場所、夢を実現させる場所なのだ。ただ単に住む場所として東京に生まれてしまうことは、何かどこかで損をしている気がする。弁当を食べ終えて、芝生の上に寝転がる。背中に髪に、枯れた芝が絡みつく。日本庭園の樹齢200年の白木蓮の巨木を見る。匂いが降ってくる。近くから見て、遠くから見て、今年も見に来れたことをうれしく思う。
千駄ヶ谷門から出て、青山を目指す。途中、喫茶店でお茶をする。WBCが気になる瀬藤さんは、携帯電話の小さな画面で野球中継を見ている。9回裏、負けが決まったところで店を出る。あーあ、と何度も残念がる瀬藤さんが可笑しい。青山のオーパギャラリー、HBギャラリーを見て、青山ブックセンターで立ち読みをして二人と別れる。なんだか歩き足りない気がして、一駅だけ歩く。夜はまだ肌寒いが、寒さの中にはもう冬の気配はない。