断片日記

断片と告知

歯のはなし
左上の銀と右下の銀。左上の銀のかぶせがとれたとき、金がなかった。かぶせてあった銀はどこかへなくし、また作り直しかとうんざりし、金がないのを言い訳にして歯医者へ行くのをなしにした。1ヶ月か2ヶ月か、今度は右下のつめものがとれた。飯を食うたび抜けた穴には何かがはさまり、それをベロでほじくるのにも飽きたころ、金が入った。仕方なしに歯医者へ行った。抜けたばかりの右下は何事もなくすぽりと収まり、さて左上と治療はうつる。神経、麻酔、注射、と聞こえてくる言葉が頭をめぐり、面倒だなとぼんやり思う。細い針が口の中に突き刺さる。痛かったら手を上げて、と言われていた手は頑なに上げず、握り締めた手のひらにじっとりと汗をかく。型をとられてまた来週と歯医者を出る。久しぶりに日記を書く。麻酔は少しずつきれてくる。抜かれなかった神経が、今ごろになってじくじくと痛む。