断片日記

断片と告知

ミンミン蝉

家の近所には大きなお寺があって、参道の桜並木では毎年たくさんの蝉が鳴く。ミンミン、アブラ、ツクツクホーシと役者は揃っていて、それらが一斉に鳴くものだから、鳴き声は混ざり合い、最盛期には蝉の声というよりも、じょわー、とか、じゅわー、とかの、ひとつの大きな音に聞こえる。閉めきった部屋で寝ていても聞こえるくらいの音なので、早朝の、空が白く明ける頃、その音でなんとなく目を覚ますこともある。ここ数日、朝と夜とが涼しくて、半袖から出た腕の寒気でぼんやり目が覚めたとき、参道から聞こえる音は、ミンミン、と鳴くただ1匹の蝉の声だけ。布団にもぐり、目をつぶりながら想像する。石畳の参道に転がる何百もの蝉の亡骸と、その樹上でただ1匹鳴くミンミン蝉の孤独な姿。