断片日記

断片と告知

ふるさと

家からアトリエまで行く道は何通りかあり、その日の気分によって歩く道を変えているが、どの道にも、飲み屋があり、ラーメン屋があり、ラブホテルがあり、足元にはガムの吐きカスとゲロの跡がある。このガムの吐きカスとゲロの跡だらけの街が私の故郷であり、兎追いしかの山、も無ければ、小鮒釣りしかの川、も無い。造っては壊し壊しては造る景色を見て育てば、思い出の街並みというものも特に無い。生まれた病院も、通っていた幼稚園も小学校もすでに無く、いっそ気持ちはさっぱりとする。詩や歌に出てくる故郷というものはずいぶん良いところのようで羨ましく思わないでもないが、それよりも、街に疲れたと言って吐き捨てたガムのこともまき散らかしたゲロのことも忘れて美しい故郷に帰れる人のほうを羨ましく思う。台風の大雨と大風に期待して少しはきれいになったかしらとアトリエまでの道を歩けば、相変わらずゲロの跡はうっすらと残り、街に敗れた誰かの夢の跡のようでうんざりとする。