断片日記

断片と告知

谷中と大塚

昼過ぎ、ナンダロウさんから電話をもらう。谷中のギャラリーで牧野伊三夫さんが個展をしていること、展示は3日間のみで今日までなこと、そこで売っているミニコミがすごくいいので買ったほうがいいこと、を教えてもらう。
目白駅から山手線に乗り、日暮里に向かう。改札を出て、谷中霊園の桜並木を抜け、カヤバ珈琲の角、言問通りを右折する。言問通りをそのまま根津駅のほうにしばらく下った左側に、不思議な名前のギャラリー「やぶさいそうすけ」はある。もと氷屋兼炭屋だったという古い建物は、あまりにもしっくりと町に馴染み、1度は気づかず前を通り過ぎ、今度は注意深く坂を引き返すと、ガラスの引き戸の向こうに牧野さんの版画が見えた。空のうえ、ウィスキーボイスなどで使われた紙版画が額装され、もと氷屋兼炭屋の1室に飾られていた。壁と天井は古い木、床は石かコンクリートか。ゴツゴツとしたいくつもの傷と排水の穴があり、引き戸を開けておけばそのまま往来の続きのような部屋だった。その空間と、ガリガリと黒で刷られた版画はよく似合っていた。
ギャラリーの奥には小さな部屋があり、その奥には台所も見える。小さな部屋では、牧野さんのミニコミとポストカードの販売をしており、ナンダロウさんお薦めのミニコミ「ふろ会」はここで売られていた。限定100部で、現在第3号まで出ており、1号2号はすでに品切れで、1冊1010円というせんとー価格。4号がそろそろ出るらしい、とギャラリーの人に教えてもらう。気になる店名「やぶさいそうすけ」は、父方と母方の曾おじいちゃんの、名字と名前を足してつけました、とのこと。
工房・ギャラリーやぶさいそうすけ
夜は、大塚の銭湯「大塚記念湯」に行く。ビルの1階にある銭湯で、2階には別料金のサウナ施設がある。1階2階と入り口は共通なので、玄関は大きく、下足箱の数も多い。右側面の下足箱は白く、左側面の下足箱がカラフルなのは、何か意味があるのかないのか。カラフルな下足箱にサンダルを放り込み、フロントで入浴料を払う。フロントの正面には2階のサウナ施設へと続く階段があり、そのままフロントの前を通り過ぎればベンチの置いてあるロビーがある。ロビーの奥が脱衣所で、大きなクーラーを挟み、右手が女湯の入り口になっている。脱衣所の天井は低いが、男湯女湯と続く天井一面に、宇宙の絵が描かれたビニールシートのようなものが貼られている。イマドキのCGで描かれたような宇宙ではなく、小松崎茂さんが描く懐かしいようなロケットと宇宙の絵で、見ていると楽しくなってくる。洗い場も天井は低い。脱衣所にも洗い場にも窓はあるがとても小さい。湯船は、右端から正面の壁に向かって「く」の字型に、水風呂、ミクロの泡風呂、薬湯、座ジェット、泡風呂とその奥に寝ジェット、と種類豊富。それぞれの湯船のサイズも大きく、ゆったりと入ることができる。この空間を最大限に活用するようなサービス精神の過剰さは、大阪の銭湯を思い出させる。正面の壁にペンキ絵はなく、そのかわりに、黄色い花が咲く草原と青い空、のような写真シートが貼られている。湯から上がり、フロントの若い女性に銭湯お遍路の判子をもらうついでに、屋号の「大塚記念湯」の「記念」は何の記念なのか、を聞いてみる。ビルの1階のイマドキの銭湯だし、天井には宇宙の絵だし、アポロ計画とか月面着陸とかの記念かしら、との甘い考えは、思ってもみなかったフロント女性の返答で吹き飛ばされる。大正天皇のご即位記念です。うち古いんですよ。
大塚記念湯