断片日記

断片と告知

外市でした

16・17日は古書往来座外市」でした。寒い中、たくさんのお客様に来ていただき、楽しんでいただき、極寒の1月の「外市」を乗り切ることができました。皆々さま、誠にありがとうございました。
まず前日15日。搬入作業のち目白のマックスキャロットで飯と飲み。鶏一羽分のっていそうな噂のチキンカレーと、烏賊一杯分使っていそうな噂のイカ墨スパゲティを堪能する。
16日初日。朝10時往来座集合、11時開店。「みちくさ市」でお世話になっているK会長から、扇風機型遠赤外線ヒーターを借り、それを心の支えに寒風の中レジ番などする。K会長からの心の支えはもうひとつ、年末に旅行してきたという中国土産のパンダ型帽子で、天安門広場ではみなこの帽子をかぶって歩いていた、中国ではいまこれが大流行、というシロモノ。見た目はアレだが、かぶってみれば温かく、「外市」という祭りの賑やかしにもちょうどいい。
昼過ぎ、蟲文庫さん到着。で、蟲さんなぜかこのパンダ帽をいたく気に入り、かぶりもの好きなんです、と言いながらうれしそうに頭にのせる。私が蟲さんを知ったのは数年前の雑誌「クウネル」だ。倉敷に蟲文庫という古本屋があるのはだいぶ前から知ってはいたが、雑誌の中で、地面にへばりつくようにして苔を見ている蟲さんを見て、デレク・ジャーマンの庭に憧れていた私は羨ましいと思い、そしてこの人が蟲さんか、と認識したのだ。その蟲さんとはじめて直接会えたのは、昨年1月の「外市」のとき。ゲストで参加していただき、打ち上げにも出ていただき、話す時間はたくさんあったのに、なぜか私は話せなかった。打ち上げ会場でわめぞ女子に囲まれる蟲さんを横目で見ながら、その輪に入れない私は座敷の隅で魚雷さんと北條さんとプロレスをし、古書現世のパロパロ向井に顔を踏まれていた。その蟲さんが、いま目の前でパンダ帽をうれしそうにかぶっている。今度は話せる、と思ったのは2回目だからか、見れば笑ってしまうパンダ帽のお陰か。パンダ帽をかぶったままの蟲さんと、打ち合わせをする。今年の8月、私は倉敷の蟲文庫で個展をするのだ。
外市」会場を抜け出して、鬼子母神けやき並木の喫茶店「キアズマ珈琲」へ行く。蟲さん、Pippoさん、パロパロ向井と、サンドイッチで小腹を満たしながらお茶を飲む。明日のワメトーク「粘菌生活」の話などして、ゆっくり時間が過ぎていく。帰り道、「ひぐらし文庫」に蟲さんをご案内して、また「外市」に戻る。
1日目の打ち上げは、いつもは2次会で使う目白の日高屋。乳首占いなどして「外市」初日の夜が更けていく。
17日2日目。朝10時、本日のワメトーク「粘菌生活」会場の、雑司ヶ谷地域文化創造館に集合し、トークとライブの設営作業をする。11時過ぎ、今度は往来座へ行き「外市」の設営作業をする。12時前に「外市」開店。往来座そばの鬼子母神で「手創り市」を開催しているからか、初日よりも道行く人々の女子率が高い。そして初日よりも風がなく暖かいのがうれしい。
昼過ぎ、蟲さんとふたり昼飯を食いに行く。往来座そばのうどん屋で、うどんをすする。腹を満たして、トーク会場の雑司ヶ谷地域文化創造館へ、鬼子母神の境内を通り抜けながら歩いて行く。境内に生える木の肌の苔を見て解説するこの人は確かに蟲さんだと思い、「手創り市」で売っていた毛糸で編んだ白熊だか兎だかのかぶりものを気に入り試着までする姿を見てこれも蟲さんだと思う。雑誌や書籍で見て知った気になっていた姿が、ほんの一面でしかなかったことを知る楽しさ。その人の横を歩けることのうれしさ。
2時半、ワメトーク「粘菌生活」開演。きのことの出会いから、文章も絵も書けるから自分はきのこに選ばれたメッセンジャーなのだ、と語る飯沢耕太郎さん。井伏鱒二の「山椒魚」に出てくる苔の描写はすごく正確なのに、光合成をする苔があの場所に生えるわけがない、と指摘する蟲さん。きのこと苔を通して世界を見直すことの面白さ。もう少し聞いていたいと思える楽しいトークでした。Pippoさんのライブで、ご自身が作詞した「銀塩写真」をウクレレで弾く飯沢さんも素敵でした。
6時、「外市」終了。片付けは若手に任せ、寒い中お待たせしている飯沢さんと蟲さんを、打ち上げ会場へとご案内する。飯沢さん、どんな話をしても動ぜず、何を話してもにこやかで、この人は写真評論家できのこ研究家で少女漫画研究家でもある偉い人なのだ、という大事な事実を忘れそうになる。そして少し忘れて乳首の話などしても、やはり飯沢さんはにこにこと笑っていて、それがまたとてもうれしい。横に座る蟲さんもお湯割りを飲みながら、にこにことパンダ帽をかぶり続けている。
恒例の売上発表は、藤井書店のリボー君のHIPHOPスタイルで盛り上がる。リボー君は、渋谷センター街で目を合わせたらお終いなような風貌なのだが、いかついサングラスを外せば実はイルカの目をした優しい男なのだ。王子に売上の入った袋を手渡されながら、ひとりひとりラップで紹介していく。韻をふみながら、リズムを刻みながら、瞬時に出てくる言葉は魔法のようで、笑いながらも凄いと思う。
2次会は池袋の和民。テーブルがふたつに分かれ、飯沢さんを囲むテーブルからは、飯沢さんの弾くウクレレの旋律と、それに合わせて刻むリボー君のラップ、そして退屈くんの口笛の音が聞こえてくる。もう一方のテーブルはといえば、馬鹿ばかりが揃ったいつもの「わめぞ」の飲み会で、とても同じグループの2次会とは思えない。終電近くまで飲み、さらに有志は3次会、高田馬場日高屋へ行く。なぜか「HB」の橋本君もご近所ファッションで登場し、キャバクラでうける手品、とかどうでもいい話をしながら3時過ぎまで飲み続ける。4次会へ行くという命知らずな人々と別れ、睡魔限界の私は雑司が谷まで歩いて帰る。歩きながら、思いは8月の倉敷へ飛んでいく。
蟲さんの上京日記と、パンダ帽はこちらをどうぞ。◆蟲日記◆: きのこの思惑、苔の意図