断片日記

断片と告知

通過していく

春になると、東京には人が溢れる。初々しさと、虚勢と、根拠のない楽しい未来を体に詰めた人たちで、溢れかえる。垢抜けない制服の、清潔な白い靴下の東京では見ない折りたたみ方の、背中にしょったリュックの子どもたちが、東京以外から来た修学旅行生だとすぐわかるように、どんなに君たちが普通のつもりで町を歩いていても、どこか町から浮いて見える。
どうして東京に行こうと思った?東京に行くことを反対されなかった?どうやって説得して出てきたの?死ぬ気で勉強した?故郷に好きな人を置いてきた?どの町に住もうと思った?故郷に帰ろうと何度か思った?東京ではじめて付き合った人はどんな人だった?その人は特別で、東京そのものだと思った?
君たちが、生まれつき東京にいる人間をずるいと思うのと同じだけ、私も君たちをずるいと思う。私の知らない、もろもろの経験と感情を通過してきた君たちに嫉妬する。そして、これから通過する君たちにも。