断片日記

断片と告知

その人が弾くヴァイオリンの音が響いた瞬間に、普段閉まっているどこかの回路が開いたのだ。大きなホールでコンサートを聴いたこともある、CDも聴いたことがある、至近距離で演奏する人を見たこともある。それなのに、目の前の人がただ弓を弾いただけで、感情のどこかが壊れた。あれ、泣いてる、と自分で自分に驚いた。すみません、例えが悪いんですが、辻斬りにあったみたいです、と素直に答えて笑われる。帰り道、両手の拳を握り締めながら歩く。この、どこにも持っていきようのない感情を、どうしてくれよう。