断片日記

断片と告知

線路脇

ひぐらし文庫で木村衣有子さんと待ち合わせ、木村さんの著書「大阪のぞき」にサインを入れ、すぐそばの停留所、鬼子母神前から都電に乗り庚申塚へ行く。庚申塚停留所にへばりつくようにしてある焼き鳥屋「御代家」。飛鳥山方面へ向かう停留所に降り立ち、都電の降車ドアから数歩歩くだけ、店の扉が目の前にある。閉じた傘をさし直す必要もない。都電の車窓からいつも見ていたこの店で今日は飲む。
生ビールで乾杯をし、焼き鳥とポテトサラダを頼む。焼きあがった焼き鳥を頬張りはじめたころ、遅れてナンダロウさんがやってくる。なぜこの3人で飲むことになったのか。木村さんから理由を聞いたが飲みつづけた酒できれいに忘れた。自費出版の話、一箱古本市の話、噂の彼の話、もったいないの話、そんな話をしたのは覚えている。飲んでいればここが都電の線路のすぐ脇だと忘れるほど静かだが、時折、ちんちん、かんかん、と都電の警笛、遮断機の音が店内まで響く。飲みながら耳に入るちんちん電車の音は、飲んで濁っていた意識をその瞬間だけ優しく醒ます。7時過ぎから11時過ぎまで飲み、外に出てみれば都電の終電が終わっている。庚申塚から早稲田行きの最終電車は11時01分発だと知る。
地蔵通り商店街を巣鴨まで歩く。深夜の商店街をこの3人で歩いていることの不思議。巣鴨駅前で立ち食い蕎麦を食べると言い張る私に、まだ食うのかよ、と文句を言いながらナンダロウさんが付き合ってくれる。酒を飲んだあとの深夜に食べる、月見蕎麦のうまさ、月にものぼる。
ひぐらし文庫さんでのサインの様子はこちらをどうぞ。
『大阪のぞき』サイン本のお知らせ