街中でボーリング場を見ると、少し寂しい気持ちになる。建物のでかさ豪華さの中に、ボウリングが流行ったころの面影を見、そして今の下火を見るからだ。要町そばの山手通り沿いにもそんなボーリング場がある。ハタボウリングセンター。前を通るたびにちくちくと気になっていたこの建物に友人たちを誘い、今日は1日遊ぶことにする。
遊ぶ前にまず何か腹に入れる。1階にマクドナルドもあるが、せっかくなので2階のハタプラザレストランに入る。マクドナルドの明るさ気軽さに比べ、このレストランはいつ見ても夕暮れのように薄暗く重く、そして人がいない。ひとりでは入りづらいこの店に、今日は連れがいるからとずかずかと入る。奥のテーブル席に5人で座る。店の前のショーケースには洋食を中心にそれなりの値段の蝋細工が並んでいたが、午後3時からの生ビールセット1000円を、5人分問答無用で注文する。ビールが運ばれてくるまでの間、店内を見回す。黒服をきちんと着たウエイターとウエイトレス、白いクロスのかかるいくつものテーブル、大きな窓から見える高速の高架とその下の山手通り、5人以外誰もいない広く静かな店内、そのどれもがこの街からも時代からも取り残され寂しく浮いて見える。運ばれてきた生ビールセットで乾杯をする。中ジョッキ1杯に、鶏のから揚げ、スライスチーズ、枝豆ののった皿がつく。
ボウリング場も2階にある。開けっぴろげの入り口からは、50レーンがどーんと並ぶフロアが見渡せ圧巻に思う。受付で、スコア画面に表示される名前を書いてください、と言われ、落武者、寝床太郎、王子、はっち、古本屋、と書く。何か面白いあだ名をと考えた結果なにも思い浮かばずとっさに、古本屋、と書かれた古書往来座の瀬戸さんが、古本屋はひどい、と何度もつぶやき訴える。
ボーリングは目の前のピンを倒すもので、戦うのは誰かではなく自分自身というごまかしのきかない競技。はったりだけで生きている私にはもっとも不向きな世界で、さらにガーターを表す「G」の文字が大量に並ぶスコア画面を見ればやる気もなくす。やる前まで、ボーリングは数年ぶりだから、みんな同じくらい下手でよかった、と牽制しあっていた言葉は、2ゲームやって合計70しかいかない本当に下手な人間は相手にされていない言葉だったと知る。学生の頃、試験前夜いかに勉強しなかったかを友人たちと言い合い、よかったと安心したのも束の間、周りはそこそこいい点数をとっていたことをあとから知り悲しくなる、というあの気持ちを久しぶりに、しかもボーリング場で味わう。
自分との闘いに敗れこれ以上進歩のないボーリングを捨て、卓球をする。卓球場も同じ2階にある。卓球場の横にはさらにオートテニス、パターゴルフ、ピッチングマシーン、ゲームセンターなどがあり、この建物がいかにでかいかがわかる。壁から出てくる球を打ち返すオートテニス。中年男性がひとり黙々と打ち返しているがうまい。あーゆー人必ずひとりはいますよね、バッティングセンターでも見るよね、さっきのボーリング場でも隣りで投げてた人うまかった、とスポーツ施設で必ず見かけるとみなが言う、ひとりで来て淡々と物凄くうまい人、をここでも見る。
卓球で2時間汗を流す。ボーリングと違い、目の前の相手にはったりをかませれば多少なんとかなる競技はやはり楽しい。5人総当り戦をする。多少なんとかなると勘違いしたはったり作戦は、運動能力と感覚の差を前に脆くも敗れ、5人中4位の結果となる。上位は古本屋、寝床太郎、王子の3人。下位は落武者とはっち。ボーリングとほぼ同じ結果が出る。上位3人と下位ふたりにわかれ、うまいはうまいなりの、下手は下手なりのラリーをして楽しむ。かこん、かこん、とプラスチックのボールの軽い音の繰り返しが耳と体に心地いい。
池袋駅前まで缶ビール片手に飲みながら歩く。さらに安酒場「ふくろ」で閉店まで飲み、帰り道に見かけた怪しすぎてひとりでは入りづらいうどん屋でただひとつの品書き、汁なし素うどん大盛り500円を食らい、家路に着く。西口の交差点にある立ち食い蕎麦屋の前を通る。そのときの古本屋の言葉、ここの蕎麦うまいですよね、はたぶん本当で、ここで羽賀研二と破局後の梅宮アンナが働いているのを僕見たんですよ、はたぶん嘘だと思う。
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