断片日記

断片と告知

どんぐりの背伸び

古書往来座の瀬戸さんと、映画を見に行った。池袋の来月閉館する映画館テアトルダイヤで「冷たい熱帯魚」を見た。見終わって、銭湯帰りの王子、往来座に来ていたAさん、と合流し、雑司が谷のアトリエで、酒を飲んで飯を食った。途中のスーパーでゴーヤチャンプルーにしようと買った、豚ばら肉を包丁で切り、「冷たい熱帯魚」よろしく、肉と包丁を瀬戸さんに見せびらかして、嫌がられながら。
今まで見た中で一番好きな映画はなんですか。瀬戸さんがAさんに聞いた。青春デンデケデケデケ、とAさんは答えた。学生のころは1ヶ月に何十本も映画を見ていて。続けて言ったAさんの言葉に、同じく映画館に通っていたころの、わたしの昔を思い出した。
10代のなかばから20代のなかば、友人の口から出る言葉に、知らない、わからない、と言えないわたしがいた。知らない、わからない、言葉を埋めるために、本を読み、映画を見、美術館やギャラリーに通っていた。正座をしながら、教科書を読むように、そうして見たものはたいていつまらなかったが、つまらない、わからない、と、そのころのわたしは言えなかった。
わからねーもんはわからねーよ。つまらねーもんはつまらねーよ。図々しくものを言える年になって、久しぶりに映画館で見た映画は面白かった。知らないものは知らないと、わからないものはわからないと、どうしてあのころ言えなかったのか。あのころ、わかったような口をきくたいていの人たちも、何もわかっていなかったのに。