断片日記

断片と告知

もの食う本

古書往来座で買った雑誌『暮らしの手帳』第1世紀100号を眺めていた。わたしが生まれる前、1969年発行のものだ。中ほどのカラーページに、「おべんとう」の特集が組まれていた。塩鮭と玉子焼き、とりそぼろ、とりのからあげとちくわ。いまと変わらないおかずが並ぶが、写真の彩りがどうにも地味だ。プチトマトがないからか。そう気づいたのはたぶん、木村衣有子さんの『もの食う本』を読んでいたからだ。
『もの食う本』(筑摩文庫)には、木村さんが読み選んだ、食うこと、に関する本が紹介されている。その中の1冊『おべんとうの時間』。木村さんは『おべんとうの時間』に出てくる弁当のおかずの、プチトマトと梅干と玉子焼きの数を数えていたのだ。69年にはなかったプチトマトが、2010年では39人中12人の弁当を彩っている。プチトマトはいつから弁当の彩りの担い手になったのか。『暮らしの手帳』を眺めていて、引きづられるように木村さんの『もの食う本』を思い出した。『もの食う本』を読んでから、そういうことがたびたびおこる。
『もの食う本』で紹介されている42冊の本。『あさ・ひる・ばん・茶 日々の小話64』では、「日本にむかしからあるものは実はかっこいいんだ、と、大声で表明したところで、もう誰も驚かなくなった。もちろんそうだよね、そう明るく頷かれるようになってから五年は経つ。十年前は、わざわざそう表明してみる態度そのものが、まだちょっと、新鮮だった。」と書かれていて、その目線に、あぁそうだった、とこちらが頷く。『台所帳』では、「ただ、しつけが厳しかったことを、ほとほと困った、という調子で語りながらもどこか誇らしげな人は自分の周りにも居て、あれは聞いていて鼻白むものだよなあとも思い当たった。」にそうそうと思いながら、引用される露伴の文への物言いに、一緒になって腹が立つ。最近つまみ作りに凝っているわたしは、『A−Girl』に出てくる「マリ子が、肩を抱かれるのと同じくらい、キスするのとももしかしたら同じくらいに、ごはんをおいしく食べてもらえることを喜ぶのだと、夏目君は知っている。」の夏目君のような男と付き合いたい、と心底思う。読んでいて気づく、ただの書評ではないのだ。これは木村さんがいままで食ってきた本を解して読む、木村さん自身のもの食う本だ。
木村さんの食ってきた本に合わせて、わたしは表紙と扉の絵を描いた。デザインは、盛岡で「てくり」を発行している木村敦子さん。編集はエンテツさんの文庫も作っているNさん。この4人で仕事をして、結果、1冊の本、という形になったことが、とてもうれしい。

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