断片日記

断片と告知

明治通り

歩いていると、よく言葉がつながる。つながった言葉を、後で書こう、と、酒を飲んですべて忘れる。歩く道はどこでもいいが、明治通りをよく歩く。雑司ヶ谷から、新宿の画材屋・世界堂まで、歌舞伎町そばの飲み屋まで。新宿の花園神社向いにたつ、花園饅頭のビルの二股の左を行けば、雑司ヶ谷からまっすぐ、世界堂の前に出る。右に行けば歌舞伎町のそばに出る。
新宿で、買い物の帰り、飲んだ帰り、雑司ヶ谷までまた歩く。昼の明治通りよりも、夜の明治通りのほうが好きだと、歩くたびにそう思う。酒の入った目で見る明治通りは、昼間よりもいくらかましだ。車の音にまぎれて歌い、尻の赤いランプを追いかけ、雑司ヶ谷まで歩いていく。行きにつなげた言葉を、明治通りに落として帰る。昼と夜と、同じ言葉の周りをただくるくると、歩いているだけ。
別冊文藝春秋』2012年3月号、樋口毅宏くん連載「二十五の瞳」、の扉絵を描きました。
文藝春秋|雑誌|別冊文藝春秋_1901