断片日記

断片と告知

TOKYO STYLE

あのころ、本はわたしの窓だった。学校帰りの夕食までの数時間、池袋のリブロやアール・ヴィヴァンで、いくつもいくつも窓をひらく。地下に広がる回廊のような店内は、手のなかにだけ窓がある、暗くて明るい場所だった。
金はなく、時間は無駄にある日々に、本屋通いは便利な日課だ。本は、買うものではなく立ち読むものだった。あのころ買えた少しの本よりも、高くて買えず、ひらいて戻した本がより胸に残る。
都築響一の写真集「TOKYO STYLE」。93年刊、定価1万2千円。外国のお手本のような部屋ばかり並ぶ写真集のなかで、「TOKYO STYLE」は、わたしや友人の、アパートの隣室の、ふだん、を開けた窓だった。鴨居に洗濯物がかけられたふだん、ぼろ畳に布団が敷きっぱなしのふだん、積み上げられた生活にホコリがたまったふだん、が、ハードカバーの重たい写真集になるのか。ひらいて笑ったような気がする。お手本のような写真集と、同じように一張羅を着せられたふだんが、本屋で一緒に並んでいるさまが痛快だった。
何度もひらいて何度も戻した本が、だいぶ前に文庫になった。ずいぶん小さく軽くなって、手のなかにおさまる窓になったが、あのときの痛快さはそのまま。

お誘いいただき、京都・長岡京でおこなわれる一箱古本市に、むと屋の屋号で文庫三冊だけ、ゆかり文庫さんの箱にお邪魔させていただくことになりました。
ゆかり文庫さんは、
「榊翆簾堂がお世話になっている古書店主さん、カフェ店主さんなど様々な方々のよりすぐりの蔵書を集めて作った特別な一箱です。しかも自筆の帯つき。」
とのこと。一箱のなかにどんな本が集まるのか、とても楽しみです。
むと屋が選んだのはこの三冊。どれも思い入れの強い、わたしにとってとても大事な本たちです。
TOKYO STYLE (ちくま文庫)都築 響一
四百字のデッサン (河出文庫)野見山 暁治 2011-05-21 - m.r.factory
四月怪談 (白泉社文庫)大島 弓子 2013-10-11 - m.r.factory

第5回天神さんからおでかけ一箱古本市
■日時
2013年11月2日(土)
10:00 〜 16:00頃
■場所
京都・JR長岡京駅前・バンビオ広場
アフタヌーン・ミニライブを予定しています
秋恒例のりんご市も開催します
■詳細
榊翠簾堂さんのブログはこちら:榊翆簾堂