断片日記

断片と告知

隣りの卒塔婆

以前、どうした流れか忘れたが、退屈くんと卒塔婆の話になったことがある。新潟生まれの退屈くんが、東京に出てきてはじめて卒塔婆を見て驚いたとかなんとか、そんな話だったように思う。雑司ヶ谷にいくつかある墓地でも、子どものころ観ていたゲゲゲの鬼太郎のアニメーションでも、墓のうしろにたつお経の書かれた板をよくある景色として見ていたが、日本のなかでさえ地域や宗派によって墓地の景色もいろいろあるのだと知り驚いた。
雑司ヶ谷の一丁目に風呂なしアパートを借りてから、雑司ヶ谷霊園をよく歩くようになった。家の近所の寺の墓地と違い、都営の雑司ヶ谷霊園では宗派を選ばずいろんな形の墓が並んでいる。卒塔婆のある墓もない墓も、土饅頭のような墓も、故人の好きな文字を彫ったもの、神道のもの、十字架を模したもの、ロシア語で彫られたものまで、細かく見るとひとつも同じものがない墓の形は歩いていて見飽きず面白い。
お盆とお彼岸の時期には、花と線香を手にする人たちで霊園があふれかえる。黒や灰色の色彩のなか、原色の花が点々と色を添える。墓を洗い花と線香をそえ、生者と故人がそれぞれの時間を過ごす。静かに、穏やかに。横が卒塔婆の墓でも、十字架の墓でも関係なく。
どうして世界はそういう風にならないのだろう。