全集『伝え継ぐ日本の家庭料理』(農文協刊)の装画を描きました。
前書きには「このシリーズは、日本人の食生活がその地域ごとにはっきりした特色があったとされる、およそ昭和35年から45年までの間に各地域に定着していた家庭料理を、日本全国での聞き取り調査により掘り起こして紹介しています。」とあります。
打ち合せのとき、編集の中田さんの口から「いまやらなければ、間に合わなくなる」ということばが何度も出ました。消えていくものをどうにかして残すこと。こうした仕事に絵で関われたことがうれしいです。
全集は、すし、野菜、肉、豆腐など、地域別ではなく料理、素材別にわかれ編まれています。頁を開くと、どーんと大きな写真とともに材料と作りやすい簡潔なレシピ、そして料理を紹介する短い文章がついています。何気なく口にしていた家のおかずの背景を知ることが出来ます。
例えば「肉・豆腐・麩のおかず」に出てくる沖縄県のフーイリチー。「昭和30年代の沖縄では麩はポピュラーな食材でした。乾物なので買いおきができ、台風で買い物に行けないときに便利なので、県民の常備食のように親しまれています。当時は卵は貴重品だったため、増量するために麩を卵に見立ててつくったそうです。卵は男の子が優先で、女の子には麩が回ってきた、という話もあります。」
例えば「魚のおかず」に出てくる石川県のいわしの塩煎り。「かつて石川県ではいわしがたくさんとれ、金沢市近在の金石港では、漁港周辺の道などにいわしの詰まった木箱が一面に並んだといいます。網から揚がったばかりのいわしには砂がついていて、それが新鮮な証拠です。いわしは港から金沢市内に売りに来ていましたが、中にはわざわざ砂をつけて売ったという話もあります。」
こちらの全集は、別冊『うかたま』から出ていたシリーズのハードカバー版になります。別冊、全集のどちらも、目次頁のイラストも担当しています。2021年までに全16冊すべてが刊行される予定です。
こちらが別冊『うかたま』版の『伝え継ぐ日本の家庭料理』。ハードカバー版と中身は同じで、お値段お安くなっています。